共役ジエンのハロゲン化水素付加 第86回薬剤師国家試験問10b
第86回薬剤師国家試験 問10b
不飽和炭化水素に関する記述の正誤を判定してみよう。
b 1,3-butadieneに高温(40℃)で臭化水素を付加させたときの主生成物は1-bromo-2-buteneである。
第86回薬剤師国家試験 問10b 解答解説
b ○ 1,3-butadieneに高温(40℃)で臭化水素を付加させたときの主生成物は1-bromo-2-buteneである。
1,3-ブタジエンヘの臭化水素の付加反応について、
低温条件では速度論的支配で1,2-付加体の3-ブロモ-1-ブテンが主生成物となり、
高温条件では熱力学的支配(平衡支配)で1,4-付加体の1-ブロモ-2-ブテンが主生成物となる。
1,3-ブタジエンヘの臭化水素の付加反応の流れは下記の通り。
★ 共役ジエンに対するハロゲン化水素(HX)の求電子付加反応の流れ
始めに、共役ジエンのπ電子がHXの正に分極したH(Hδ+)に供与され、C=Cの4つの炭素のうちのいずれか1つにHが付加し、カルボカチオンの中間体を生成するが、より安定性の高いカルボカチオンを生成するようにHが付加する。この時、C=C−C+という構造のアリルカルボカチオンを生成するようにHが付加する。
その理由は、アリルカルボカチオンはπ電子が共鳴により非局在化し、エネルギーが低く、安定性が高いためである。
次に、アリルカルボカチオンのC+に対してハロゲン化物イオン(X−)が求核付加することになるが、
低温時と高温時とで主生成物が異なる。
(1)低温時:反応は速度論的支配で、主生成物は1,2-付加体となる。
(2)高温時:反応は熱力学的支配(平衡支配)で、主生成物は熱力学的に安定性の高い1,4-付加体となる。
(1) 低温の時:反応は速度論的支配で1,2-付加体が主生成物となる
低温では、よりエネルギーが高く、より熱力学的に不安定な1,2-付加体を生じる反応が支配的となる。
1,4-付加体は1,2-付加体より熱力学的に安定であるが、1,4-付加体を生成するために必要なエネルギーは1,2-付加体を生成するためのエネルギーよりも大きい。低温では、1,4-付加体を生成するためのエネルギーを得ることが困難なため、反応の進行において熱力学的な安定性の高さよりも反応速度の速いものが支配的となり、主生成物が1,2-付加体となる。
(2) 高温の時:反応は熱力学的支配(平衡支配)で1,4-付加体が主生成物となる
高温では、よりエネルギーが低く安定性の高い1,4-付加体を生成するために必要なエネルギーを得ることが比較的容易なため、反応の進行において熱力学的に安定な生成物を生じる反応が支配的となり、1,4-付加体が主生成物となる。
共役ジエンに対するハロゲン化水素の付加反応の生成物において、1,4-付加体は1,2-付加体より熱力学的に安定であることは、アルケンの安定性と置換基の数との関係から説明される。
アルケンの安定性については下記のリンク先を参照
アルケンの安定性
1,4-付加体のC=Cの置換基の数は2つで、
1,2-付加体のC=Cの置換基の数は1つである。
1,4-付加体の方が1,2-付加体よりもC=Cの置換基の数が多いので、1,4-付加体は1,2-付加体よりもエネルギーが低く、熱力学的に安定性が高いといえる。