アルケン 過酸反応後、酸触媒加水分解 91回薬剤師国家試験問7ef
91回薬剤師国家試験 問7ef
シクロヘキセンに次の反応e,fを行った。
得られる主生成物がラセミ体となるか判定してみよう。ただし、立体配座異性体は考えないものとする。
e m-クロロ過安息香酸を反応させたときの生成物
f m-クロロ過安息香酸を反応させたときの生成物に、さらに酸触媒による加水分解反応を行ったときの生成物
91回薬剤師国家試験 問7ef 解答解説
e シクロヘキセンにm-クロロ過安息香酸を反応させたときの生成物
→ 主生成物としてメソ体が生成し、ラセミ体とはならない。
f シクロヘキセンにm-クロロ過安息香酸を反応させたときの生成物に、さらに酸触媒による加水分解反応を行ったときの生成物
→ 生成物はラセミ体となる。
シクロヘキセンにm-クロロ過安息香酸を反応させると、
エポキシド(オキシラン)を生成する。
続いて、生成したエポキシドを酸触媒下で加水分解すると、
2つのOHがanti付加したジオールを生成する。
本問の反応は、以下のように進行する。
以下、詳細
アルケンにm-クロロ過安息香酸のような過酸(R−COOOH)を反応させると、
エポキシド(オキシラン)が生成する。
過酸のC=Oから最も離れた酸素は電子不足であり、求電子的に反応する。
この電子不足な酸素にアルケンのπ電子が供与され、付加することでエポキシド(オキシラン)が生成する。
アルケンに過酸の酸素が付加する際、アルケンの平面に対して、
酸素が上に付加するのと下に付加するのは平等に起こり得る。
このことから、反応物のアルケンの構造によっては、生成物のエポキシドは鏡像異性体の等量混合物(ラセミ体)となることがある。
シクロヘキセンにm-クロロ過安息香酸を反応させると、
以下のようにエポキシドを生成する。
上記の通り、シクロヘキセンにm-クロロ過安息香酸を反応させるとエポキシドを生成するが、このエポキシドは分子内対称面を持つので、メソ体(メソ化合物)である。
よって、生成物はラセミ体にはならない。
続いて、生成したエポキシド(オキシラン)を酸触媒下で加水分解すると、2つのOHがanti付加(trans付加)したジオールが生成する。
本問の反応は以下のように進行する。
上記の通り、
シクロヘキセンにm-クロロ過安息香酸を反応させてエポキシドを生成し、これを酸触媒下で加水分解すると、互いに鏡像異性体の関係にあるジオールが等量ずつ生成する。
よって、生成物はラセミ体となる。
なお、アルケンに過酸を反応させてエポキシドを生成する反応について、
シクロヘキセンから生成したエポキシドはメソ体であったが、
アルケンの構造次第でラセミ体のエポキシドが得られる場合もある。
以下のリンク先を参照
アルケンの過酸反応後酸触媒加水分解とOSO4反応後NaHSO3水処理 106回問103
★ アルケンに過酸を反応させてエポキシド生成、その後の酸触媒加水分解で2つのOHがanti付加となる理由
アルケンに過酸を反応させると、エポキシドが生成する。
続いて、エポキシドを酸触媒下で加水分解するにあたり、エポキシドの三員環を構成しているCδ+にH2Oが求核付加するが、H2OがCδ+にアクセスする経路として、エポキシドの酸素のいない側からの方がアクセスしやすい。酸素が上にいればH2Oは下から付加し、酸素が下にいればH2Oは上から付加する。このことから、2つのOHがanti付加したジオールが主生成物になる。