アルケンの反応機構 109回薬剤師国家試験問103

109問薬剤師国家試験 問103
電子移動を示す矢印で記した機構が主となって、実際に進行し、生成物が得られる反応はどれか。1つ選びなさい。

 

109回薬剤師国家試験問103 電子移動を示す矢印で記した機構が主となって、実際に進行し、生成物が得られる反応はどれか

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薬剤師国家試験過去問題集 化学 アルケン

 

 

109問薬剤師国家試験 問103 解答解説

 

★ アルケンの求電子付加反応

 

アルケンのC=Cは、σ結合の上下にπ結合の電子雲が広がっているので、アルケンは電子豊富な構造である。
電子豊富なアルケンは、電子不足な求電子剤にπ電子を供与し、求電子付加反応を起こすことが多い。

 

109回薬剤師国家試験問103 電子移動を示す矢印で記した機構が主となって、実際に進行し、生成物が得られる反応はどれか

 

 

◆ 1について
109回薬剤師国家試験問103 電子移動を示す矢印で記した機構が主となって、実際に進行し、生成物が得られる反応はどれか

 

選択肢1の反応は進行しないと考えられる。
選択肢1の反応は、アルケンに対するハロゲン化水素の求電子付加反応である。
この反応では、始めに、C=Cのπ電子がHBrに供与される。この時、HとBrのうち、電気陰性度が相対的に小さく、正に帯電したHにC=Cのπ電子が供与され、Hが付加する。
設問の機構では、電気陰性度が相対的に大きく、負に帯電したBrにπ電子が供与されているので、誤りである。
選択肢1の反応は、実際には以下のように進行すると考えられる。

 

109回薬剤師国家試験問103 電子移動を示す矢印で記した機構が主となって、実際に進行し、生成物が得られる反応はどれか

 

 

なお、アルケンに対するハロゲン化水素の求電子付加反応は、立体化学が問われることもある。
詳細は下記のリンク先を参照
アルケンに対するハロゲン化水素付加の立体化学 107回問103の4

 

 

◆ 2について
109回薬剤師国家試験問103 電子移動を示す矢印で記した機構が主となって、実際に進行し、生成物が得られる反応はどれか

 

選択肢2の反応は進行しないと考えられる。
選択肢2の反応は、アルケンに対して、一重項カルベンが求電子付加し、シクロプロパンを生成する反応である。
一重項カルベンの炭素はsp2混成軌道を取り、オクテット則を満たしておらず、空のp軌道を持つ。ゆえに、一重項カルベンは電子を欲しがる求電子剤となる。
よって、この反応は、空のp軌道を持つジクロロカルベンの炭素に対し、アルケンのπ電子が供与されることから進行する。
設問の機構では、アルケンに対し、ジクロロカルベンの非共有電子対が供与されることから進行しているので誤りである。
選択肢2の反応は、実際には以下のように進行すると考えられる。

 

109回薬剤師国家試験問103 電子移動を示す矢印で記した機構が主となって、実際に進行し、生成物が得られる反応はどれか

 

 

なお、アルケンに対するカルベンの求電子付加反応は、立体化学が問われることもある。
詳細は下記のリンク先を参照
アルケンに対するカルベンの求電子付加反応 93回問6d

 

 

◆ 3について
109回薬剤師国家試験問103 電子移動を示す矢印で記した機構が主となって、実際に進行し、生成物が得られる反応はどれか

 

選択肢3の反応は進行しないと考えられる。
選択肢3の反応はアルケンのヒドロホウ素化であり、アルケンのC=Cに対してBH3(ボラン)がBH 2とHに分かれてsyn付加する。
BH3のB(ホウ素)は空軌道を有するので、電子を受け取る求電子試薬となる。
よって、この反応は、空軌道を持つBH3のBに対し、アルケンのπ電子が供与されることから進行する。
設問の機構では、BH3のHに対してジクロロカルベンの非共有電子対が供与されているので誤りである。
選択肢3の反応は、実際には以下のように進行すると考えられる。

 

109回薬剤師国家試験問103 電子移動を示す矢印で記した機構が主となって、実際に進行し、生成物が得られる反応はどれか

 

 

なお、アルケンのヒドロホウ素化は、立体化学が問われることもある。
詳細は下記のリンク先を参照
アルケンのヒドロホウ素化−酸化による水和 89回問8c

 

 

◆ 4について
109回薬剤師国家試験問103 電子移動を示す矢印で記した機構が主となって、実際に進行し、生成物が得られる反応はどれか

 

選択肢4の反応は進行すると考えられる。
選択肢4の反応は、アルケンに対するハロゲン分子(X2)の求電子付加反応であり、アルケンのC=Cに対して2つのハロゲン(X)がanti付加(trans付加)したジハロゲン化物が生成する。

 

選択肢4の反応では、始めに、Br2の2つのBrのうち、正に分極したBr(Brδ+)に対し、アルケンのπ電子が供与されてBrが付加し、中間体として三員環の臭素カチオン(Br)が生成する。
次に、三員環を構成している正に分極した炭素(Cδ+)にBrが求核付加する。この時、BrがCδ+にアクセスする経路として、Brのいない側からの方がアクセスしやすい。
このことから、主生成物は2つのBrがanti付加(trans付加)したものとなる。

 

109回薬剤師国家試験問103 電子移動を示す矢印で記した機構が主となって、実際に進行し、生成物が得られる反応はどれか

 

 

◆ 5について
109回薬剤師国家試験問103 電子移動を示す矢印で記した機構が主となって、実際に進行し、生成物が得られる反応はどれか

 

選択肢5の反応は進行しないと考えられる。
選択肢5の反応は、アルケンと過酸が反応してエポキシド(オキシラン)が生成する反応である。
過酸のC=Oから最も離れた酸素原子は電子不足であり、求電子的に反応する。
よって、この反応は、m-クロロ過安息香酸のC=Oから最も離れた酸素原子に対し、アルケンのπ電子が供与されることから進行する。
設問の機構では、m-クロロ過安息香酸のC=Oの隣の酸素原子に対し、アルケンのπ電子が供与されているので誤りである。
選択肢5の反応は、実際には以下のように進行すると考えられる。

 

109回薬剤師国家試験問103 電子移動を示す矢印で記した機構が主となって、実際に進行し、生成物が得られる反応はどれか

 

なお、アルケンと過酸の反応によるエポキシ化は、立体化学が問われることもある。
詳細は下記のリンク先を参照
アルケンと過酸反応後、酸触媒加水分解の立体化学 106回問103

 

 

★他サイトさんの解説へのリンク
109回問103(e-RECさん)

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