アルケン 求電子付加反応 総合問題 91回薬剤師国家試験問7
91回薬剤師国家試験 問7
シクロヘキセンに次のような反応(a〜f)を行った。得られる主生成物がラセミ体となるものはどれか、すべて選びなさい。ただし、立体配座異性体は考えないものとする。
a 塩化水素を反応させたときの生成物
b 臭素を反応させたときの生成物
c 硫酸触媒で水を反応させたときの生成物
d ジボランを反応させた後に、さらに塩基性過酸化水素水溶液で酸化反応を行ったときの生成物
e m-クロロ過安息香酸を反応させたときの生成物
f m-クロロ過安息香酸を反応させたときの生成物に、さらに酸触媒による加水分解反応を行ったときの生成物
91回薬剤師国家試験 問7 解答解説
★ 求電子反応・求核反応の生成物がラセミ体となる条件
ラセミ体とは互いにエナンチオマー(鏡像異性体)である物質の等量混合物である。
求電子反応または求核反応で生成物がラセミ体となる条件は、基質に対して求電子試薬または求核試薬がアクセスする際、左からアクセスするのと右からアクセスするのとで(または上アクセスするのと下からアクセスするのとで)アクセスのしやすさが全く同じで、同じ確率で起こり得ることである。
このことが、生成物において立体的に互いに鏡像異性体であるものが等量ずつ生ずることにつながる。
ただ、上記の条件を満たすからといって必ずしも生成物がラセミ体となるわけではない。特に、生成物がメソ化合物であることに注意が必要である。メソ化合物は分子内に対称面を持つ化合物のことである。
★ アルケンを基質とした求電子付加反応
アルケンの反応性について、アルケンのC=Cは電子豊富な構造であるので、アルケンは主に電子を供与する側になりやすい。
このことから、アルケンでは電子豊富なC=Cに対して求電子試薬が付加する求電子付加反応が起こる。
アルケンを基質とする求電子付加反応は求電子試薬によっていくつかの反応に分類されるが、反応ごとの立体的な特徴として、求電子試薬がsyn(シン)付加するかanti(アンチ)付加するのかが重要なポイントである。
大事なことは、求電子試薬がなぜsyn(シン)付加またはanti(アンチ)付加するのか、”反応過程から説明できる”ことである。
また、生成物がメソ化合物か否かの判別もポイントである。
◆ aについて
シクロヘキセンに塩化水素を反応させたときの生成物
aの反応は、アルケンに対するハロゲン化水素の求電子付加反応であり、
アルケンにハロゲンと水素が付加する。
この反応は、より安定なカルボカチオン中間体を生成する過程を経るので、主生成物はマルコフニコフ型となる。
すなわち、アルケンの2つの炭素のうち、アルキル置換基の数が少ない方の炭素にHが付加し、アルキル置換基の数が多い方の炭素にハロゲンが付加したものが主生成物となる。
aの反応は下記のように進行する。
上記の通り、シクロヘキセンと塩化水素の反応の主生成物は、
不斉中心を持たないので、ラセミ体とはならない。
◆ bについて
シクロヘキセンに臭素(Br2)を反応させたときの生成物
bの反応は、アルケンに対するハロゲン分子(X2)の求電子付加反応であり、
主生成物として、アルケンに対してハロゲンが2つanti付加(trans付加)したジハロゲン化物が生成する。
bの反応は下記のように進行する。
上記の通り、シクロヘキセンに臭素を反応させたときの生成物は、
互いに鏡像異性体の関係にある化合物の等量混合物(ラセミ体)である。
◆ cについて
シクロヘキセンに硫酸触媒で水を反応させたときの生成物
cの反応は、アルケンの酸触媒下での水和反応であり、アルケンにOHとHが付加したアルコールが生成する。
この反応は、カルボカチオン中間体を経るので、マルコフニコフ型付加となる。
すなわち、アルケンの2つの炭素のうち、置換基の少ない方の炭素にHが付加し、置換基の多い方の炭素にOHが付加する。
cの反応の進行は以下の通り。
上記の通り、シクロヘキセンに硫酸触媒で水を反応させたときの主生成物は、
不斉中心を持たないので、ラセミ体とはならない。
◆ dについて
ジボランを反応させた後に、さらに塩基性過酸化水素水溶液で酸化反応を行ったときの生成物
dの反応は、アルケンのヒドロホウ素化−酸化と呼ばれる水和反応の1種であり、
アルケンにOHとHがsyn付加したアルコールが生成する。
また、この反応は、逆マルコフニコフ型付加であり、アルケンの2つの炭素のうち、置換基の多い方の炭素にOHが付加し、置換基の少ない方の炭素にHが付加する。
dの反応は、下記のように反応が進む。
上記の通り、シクロヘキセンに硫酸触媒で水を反応させたときの主生成物は、
不斉中心を持たないので、ラセミ体とはならない。
◆ e,fについて
e シクロヘキセンにm-クロロ過安息香酸を反応させたときの生成物
→ 主生成物としてメソ体が生成し、ラセミ体とはならない。
f シクロヘキセンにm-クロロ過安息香酸を反応させたときの生成物に、さらに酸触媒による加水分解反応を行ったときの生成物
→ 生成物はラセミ体となる。
シクロヘキセンにm-クロロ過安息香酸を反応させると、
エポキシド(オキシラン)を生成する。
続いて、生成したエポキシドを酸触媒下で加水分解すると、
2つのOHがanti付加したジオールを生成する。
本問の反応は、以下のように進行する。
詳細は下記のリンク先を参照
アルケンに過酸反応後、酸触媒加水分解 91回問7ef