エステルの加水分解 酸性条件と塩基性条件の違い 84回薬剤師国家試験問12b
第84回薬剤師国家試験 問12b
エステルに関する次の記述の正誤を判定してみよう。
b エステルのアルカリによる加水分解は、触媒反応なので、加えるアルカリの量は触媒量で十分である。
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第84回薬剤師国家試験 問12b 解答解説
b × エステルのアルカリによる加水分解は、触媒反応なので、加えるアルカリの量は触媒量で十分である。
→ 〇 エステルのアルカリによる加水分解は、水酸化物イオン(OH−)による求核アシル置換反応なので、加えるアルカリの量はエステルと当量必要である。
→ 〇 エステルの酸による加水分解は、触媒反応なので、加える酸の量は触媒量で十分である。
(1)エステルの酸性条件下での加水分解
酸性条件でのエステルの加水分解では、エステル(R1-CO-OR2)のカルボニル酸素が酸触媒によってプロトン化され、カルボニル炭素の反応性が高まったところに水分子が求核攻撃し、求核アシル置換反応の結果、カルボン酸(R1-COOH)とアルコール(R2-OH)を生成する。酸触媒によるエステル加水分解は、出発物のエステルと水分子の安定性が高いため、平衡反応である。
(2)エステルの塩基性条件下での加水分解(けん化)
塩基性条件でのエステルの加水分解では、エステル(R1-CO-OR2)に対して水酸化物イオン(OH−)が求核攻撃し、求核アシル置換反応の結果、カルボキシラートイオン(R1-COO−)の塩とアルコール(R2-OH)を生成する。よって、反応を進めるにはエステルと当量のOH−が必要である(触媒量では不十分)。塩基性条件でのエステル加水分解は、出発物のOH−の安定性が低いため、不可逆反応である。反応後、酸処理でカルボン酸(R1-COOH)が得られる。なお、塩基性条件でのエステルの加水分解はせっけん(高級脂肪酸の塩)の生成にちなんで“けん化”と呼ばれる。