カルボン酸誘導体の反応性(反応速度)・安定性の序列とその理由
本ページでは、カルボン酸誘導体(酸ハロゲン化物,酸無水物,エステル,アミド)の反応性と安定性の序列とその理由について説明しています。
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★ カルボン酸誘導体の種類間の求核アシル置換反応の反応性(反応速度)の比較
カルボン酸誘導体の種類間の求核アシル置換反応の反応性について、反応性の高いものから(反応速度が速いものから)、
酸ハロゲン化物>酸無水物>エステル>アミドと並ぶ。
一方、カルボン酸誘導体の安定性について、反応性の序列とは逆で、安定性の高いものから、
アミド>エステル>酸無水物>酸ハロゲン化物と並ぶ。
以下、カルボン酸誘導体の反応性の序列について説明
カルボン酸誘導体(R-CO-L)の求核アシル置換反応の反応性は、カルボニル炭素の正電荷(δ+)が大きいほど反応性が高い。
カルボン酸誘導体の反応性については、置換基の電子効果が関わる。
置換基の電子効果については下記のリンク先を参照
誘起効果・共鳴効果とは?
カルボニルの置換基(L)がカルボニル炭素に電子求引性電子効果を与えるならば、カルボニル炭素の正電荷(δ+)は強まり、反応性は高くなる。酸ハロゲン化物では、ハロゲンの電子求引性誘起効果により、カルボニル炭素の正の分極は大きくなる。このことから、カルボン酸誘導体の中で求核剤との反応性が最も高い。
カルボニルの置換基(L)がsp2炭素のカルボニル炭素に電子供与性電子効果を与えるならば、カルボニル炭素の正電荷は弱まり反応性は低くなる。アルコキシド(OR)やアミン(NR)は、カルボニル炭素に電子供与性共鳴効果を与えるので、これらがカルボニル炭素に置換しているエステルやアミドのカルボニル炭素は求核剤との反応性は低い。
以下、酸無水物,エステル,アミドの反応性について説明。
カルボン酸誘導体は下記のように共鳴安定化している。
真の構造に対するBの共鳴構造式の寄与が大きいほど、カルボニル炭素の正の分極(δ+)は小さく、カルボニル炭素の求核剤との反応性は低いと考えられる。
・アミドの反応性について
アミドは下記のように共鳴安定化する。
窒素と酸素では酸素の方が電気陰性度が大きいので、酸素に電子が集まっているBの共鳴構造式の寄与が大きい。よって、アミドのカルボニル炭素の求核剤との反応性はとても低い。
・エステルの反応性について
エステルは下記のように共鳴安定化する。
Bの共鳴構造式の寄与はアミドに比べて小さい。よって、エステルのカルボニル炭素の求核剤との反応性はアミドに比べると高い。また、エステルとアミドの比較について、アルコキシドの電子求引性誘起効果はアミンに比べて強いので、エステルのカルボニル炭素の方が正の分極(δ+)が大きいことも考えられる。
・酸無水物の反応性について
酸無水物は酸塩化物には劣るが、エステル,アミドに比べてカルボニル炭素の求核剤との反応性は高い。
その理由として、酸無水物では、酸素の非共有電子対が2つのアシル基で共有されることが挙げられる。