芳香族化合物の性質 共役ポリエン・シクロオクタテトラエン 89回薬剤師国家試験問5
第89回薬剤師国家試験 問5
芳香族化合物に関する記述のうち、正しいものの組合せはどれか。
a 4n個のπ電子をもつ平面で環状の共役ポリエンである。
b 1H NMRスペクトルには、環電流効果が現れる。
c 求電子剤と付加反応を起こしやすい。
d シクロオクタテトラエンは非芳香族化合物である。
第89回薬剤師国家試験 問5 解答解説
◆ aについて
a × 芳香族化合物は4n個のπ電子をもつ平面で環状の共役ポリエンである。
→ 〇 芳香族化合物は4n+2個のπ電子をもつ平面で環状の共役ポリエンである。
環状化合物が芳香族性を示す条件は下記の@〜Bの通り。
@ 環を構成する全ての原子がsp2混成軌道をとり、平面構造である。
A 隣り合う原子のp軌道同士がすべて重なり合う。
B 環が4n+2個(n=0,1,2,3…)のπ電子を有する(ヒュッケル則)。
下記のシクロプロペニルカチオンは芳香族性を示す。
◆ bについて
b ○ 芳香族化合物の1H NMRスペクトルには、環電流効果が現れる。
芳香環では、環の構成原子のp軌道が重なり合ってできた軌道をπ電子が循環する。これにより環電流と呼ばれる現象が発生する。芳香環ではπ電子の環電流効果が働くため、1H-NMRにおいて芳香環炭素に結合した水素のシグナルは7〜8ppmの低磁場に観測される。
環電流効果が働かない脂肪族の炭化水素に結合した水素のシグナルは1〜3ppm付近の高磁場に観測される。
◆ cについて
c × 芳香族化合物は求電子剤と付加反応を起こしやすい。
→ 〇 芳香族化合物は求電子剤と置換反応を起こしやすい。
★ 芳香環はπ電子豊富であり、求電子試薬(E+)と反応し、水素(H)と求電子試薬(E)が置換する求電子置換反応を起こす。
芳香族化合物は求電子置換反応の基質となる。その機構は次の通り。
まず、芳香環のπ電子豊富な環炭素の1つに対して求電子試薬(E+)が付加し、中間体としてカルボカチオンを生成する。カルボカチオンとなることで、一旦、環は芳香族性を失いエネルギーが上昇して安定性が低下するが、求電子試薬が付加した炭素からHがプロトンとして放出されることにより、芳香族性を取り戻し、エネルギーが低下して安定な生成物となる。結果として、環炭素の1つにおいて水素(H)と求電子試薬(E)が置換したものが生成する。
芳香族求電子置換反応の1例として、
ベンゼンを基質とし、ニトロニウムイオン(+NO2)を求電子試薬としたベンゼンのニトロ化反応の様子を下記に示す。
◆ dについて
d ○ シクロオクタテトラエンは非芳香族化合物である。
シクロオクタテトラエンは、π電子数が8個であり4n+2個のヒュッケル則を満たさないので、芳香族性を示さない。