芳香族求電子置換反応の置換基効果による配向性と反応性
芳香族求電子置換反応の置換基効果による反応性(起こりやすさ)・配向性(位置選択性)の解説です。
★ 芳香環における官能基の電子効果と求電子置換反応の配向性・反応性との関係
芳香環はπ電子豊富であり、求電子試薬(E+)と反応し、
水素(H)と求電子試薬(E)が置換する求電子置換反応を起こす。
芳香族求電子置換反応の反応機構については下記のリンク先を参照
芳香族化合物の求電子置換反応の反応機構 89回問5c
☆ 芳香環の求電子置換反応の配向性
すでに芳香環に置換基が導入されている芳香族化合物において、追加で芳香環に置換基を導入する際、既存の置換基の共鳴効果により、置換されやすい環の位置が決まる。これを配向性という。
既存の置換基の電子効果により、オルト位およびパラ位が置換されやすくなることをオルト・パラ配向性と呼び、メタ位が置換されやすくなることをメタ配向性と呼ぶ。
求電子置換反応の配向性は主に置換基の共鳴効果による。
既存の置換基が電子供与性共鳴効果(+R)を与える場合、相対的にオルト位とパラ位の電子密度が高くなるため、求電子置換反応はオルト・パラ配向性となる。また、この場合、オルト位とパラ位に置換した生成物はメタ位に置換した生成物に比べて共鳴構造式が多く描けるので、生成物の安定性の点からもオルト・パラ配向性となる。
既存の置換基が電子求引性共鳴効果(−R)を与える場合、オルト位とパラ位の電子密度が低くなるため、結果としてメタ位の電子密度が相対的に高くなり、求電子置換反応はメタ配向性となる。
☆ 芳香環の求電子置換反応の反応性
すでに芳香環に置換基が導入されている芳香族化合物において、追加で芳香環に置換基を導入する際、既存の置換基の総合的な電子効果により、求電子置換反応の反応性が置換基の無い芳香環との比較で相対的に高くなったり低くなったりする。
既存の置換基が芳香環に対して総合的に電子供与性電子効果を与える場合、芳香環の電子密度が高くなるので求電子置換反応の反応性が高くなる。
既存の置換基が芳香環に対して総合的に電子求引性電子効果を与える場合、芳香環の電子密度が低下するので求電子置換反応の反応性が低くなる。
既存の置換基が芳香族求電子置換反応に与える配向性と反応性を官能基別に整理する。
@ アミノ基(NR,アミドのアミノ基側も含む),ヒドロキシ基(OH),エーテル(OR)が既存の場合
配向性:オルト・パラ配向性
反応性:無置換より反応性が高い。
配向性について、酸素や窒素といったヘテロ原子が持つ非共有電子対が共鳴効果で供与されるため(電子供与性共鳴効果)、オルト・パラ配向性となる。
反応性について、芳香環には総合的に電子供与性電子効果を与えるので、反応性が高くなる。
アミノ基(NR,アミドのアミノ基側も含む),ヒドロキシ基(OH),エーテル(OR)は芳香環に対して電子供与性の共鳴効果(+R)と電子求引性の誘起効果(−I)を与えるが、+Rの方が−Iよりも強いため、結果として、芳香環に対して総合的に電子供与性の電子効果を与えることになり、無置換の場合よりも芳香環の電子密度は高く、反応性は高くなる。
A アルキル基が既存の場合
配向性:オルト・パラ配向性
反応性:無置換より反応性が高い。
芳香環に直接結合するアルキル基の炭素のC−H結合の電子が共鳴して芳香環に供与される。この現象を超共役と呼ぶ。
超共役については下記のリンク先を参照
超共役とは?
超共役によりアルキル基置換の場合、オルト・パラ配向性となる。
反応性について、アルキル基は芳香環に対して誘起効果と超共役による電子供与性電子効果を与えるので、反応性が高くなる。
B ハロゲンが既存の場合
配向性:オルト・パラ配向性
反応性:無置換より反応性が低い。
配向性について、ハロゲンが持つ非共有電子対が共鳴効果で供与されるため(電子供与性共鳴効果)、オルト・パラ配向性となる。
反応性について、芳香環には総合的に電子求引性電子効果を与えるので、無置換の場合よりも反応性は低くなる。
ハロゲンは芳香環に対して電子供与性の共鳴効果(+R)と電子求引性の誘起効果(−I)を与えるが、ハロゲンでは−Iの方が+Rよりも強いため、結果として、芳香環に対して総合的に電子求引性の電子効果を与えることになり、無置換の場合よりも芳香環の電子密度は低く、反応性は低い。
C =O,=N,=SといったO,N,Sの不飽和結合を含む官能基が既存の場合
配向性:メタ配向性
反応性:無置換より反応性が低い。
O,N,Sの不飽和結合を含む官能基として下記が挙げられる。
−NO2(ニトロ基)
−COOH(カルボキシ基)
−COOR(エステル)
−CO−N−(アミドのカルボニル側)
−CO−(アルデヒド,ケトン)
−CN(シアノ基)
−SO2R(スルホ基)
配向性について、O,N,Sの不飽和結合を含む官能基は電子求引性共鳴効果を与えるので、メタ配向性となる。メタ配向性は、OやNの不飽和結合を含む官能基だけである。
反応性について、O,N,Sの不飽和結合を含む官能基は芳香環に対して誘起効果と共鳴効果のどちらも電子求引性電子効果を与えるので、反応性が低くなる。
★ 芳香族化合物における置換基による求電子置換反応の進行の比較
★ 二置換のベンゼン環の求電子置換反応の配向性について、2つの置換基のうちで相対的に電子供与性が強い方の置換基を基点とした配向性となる。
例えば、下記の−OHと−CH3の二置換ベンゼンの求電子置換反応の配向性について、
−OHも−CH3も芳香環に対して電子供与性電子効果を与えるが、−OHの方が相対的に電子供与性が強い。
よって、上記の−OHと−CH3の二置換ベンゼンの求電子置換反応の配向性は−OHを基点としたオルト・パラ配向性となり、主生成物は下記のようになる。
他の例として、下記の−CH3と−NO2の二置換ベンゼンの求電子置換反応の配向性について、
−CH3は芳香環に対して電子供与性電子効果を与え、−NO2は電子求引性電子効果を与えるので、−CH3の方が相対的に電子供与性が強い。
よって、上記の−CH3と−NO2の二置換ベンゼンの求電子置換反応の配向性は−CH3を基点としたオルト・パラ配向性となり、主生成物は下記のようになる。