芳香環でsn2反応は起こりにくい 100回薬剤師国家試験問104の4
第100回薬剤師国家試験 問104 記述4
下記の反応4について、電子移動を示す矢印(細い矢印)で記した機構が主となって、実際に進行し生成物が得られるかどか判定してみよう。
第100回薬剤師国家試験 問104 記述4 解答解説
芳香族求核置換反応に関する問題である。
新コアカリキュラムでは、芳香族求核置換反応はアドバンストの内容になっている。
反応4は、ハロゲン化アリール(Ar−X)であるクロロベンゼンを基質とするSN2反応であるが、これは起こりにくい。
一般に、電子豊富な芳香環では求電子置換反応は比較的起こりやすいが、求核置換反応は起こりにくい。
ただし、芳香族化合物に求核剤としてアミドイオン(−NH2)が反応する場合、ベンザイン中間体を経由する機構で芳香族求核置換反応が起こり得る。
★ ハロゲン化ビニル(CH2=CH−X)とハロゲン化アリール(Ar−X)では求核置換反応が起こりにくい。
ハロゲン化ビニル(CH2=CH−X)とハロゲン化アリール(Ar−X)のハロゲン−炭素結合はハロゲン−sp2炭素の結合である。このことから、ハロゲン化ビニルやハロゲン化アリールで求核置換反応が起こりにくい理由が挙げられる。
1つ目は、ハロゲン−sp2炭素の結合は共鳴により強化されて開裂しにくくなっているので求核置換反応は起こりにくいという説である。
2つ目は、ハロゲン−sp2炭素の炭素の正の分極(Cδ+)は弱いため、求核試薬との反応性が低いという説である。
sp2炭素はsp3炭素に比べて電気陰性度が大きいので、ハロゲン−sp2炭素の分極はハロゲン−sp3炭素よりも弱い。また、ハロゲン−sp2炭素では、ハロゲンの電子供与性共鳴効果が発現し、ハロゲン−sp2炭素の分極を弱める。
これらのことから、ハロゲン−sp2炭素の炭素の正の分極(Cδ+)は弱いため、求核試薬との反応は起こりにくいと考えられる。
以上のことから、ハロゲン化ビニル(CH2=CH−X)とハロゲン化アリール(Ar−X)では求核置換反応が起こりにくい。