芳香族求電子置換反応のニトロ化 105回薬剤師国家試験問104
第105回薬剤師国家試験 問104
化合物Aの反応に関する記述の正誤を判定してみよう。
1 SO3 が求電子剤として作用する置換反応である。
2 アの部分は共鳴効果による電子求引性を示す。
3 アの部分は誘起効果による電子供与性を示す。
4 アの部分のかさ高さのため、オルト置換体が得られにくい。
5 Aの代わりにベンゼンを基質とすると反応は遅くなる。
第105回薬剤師国家試験 問104 解答解説
◆ 1について
1 × SO3が求電子剤として作用する置換反応である。
→ 〇 +NO2が求電子剤として作用する置換反応である。
設問の反応では、
芳香族求電子付加反応のニトロ化が進行する。
★ 芳香族求電子置換反応のニトロ化:反応機構と不可逆性
発煙硝酸(濃硝酸の1種)と濃硫酸を反応させると、硝酸が硫酸によりプロトン化され、その後、脱水が起きてニトロニウムイオン(+NO2)を生成する。アセトアニリドの電子豊富なベンゼン環の1つの炭素に対して求電子剤のニトロニウムイオンが付加してカルボカチオン中間体を生成し、次に同じ炭素から水素がプロトンとして外れ、結果、アセトアニリドのベンゼン環炭素の1つにおいてHとNO2が置換したものが生成する(求電子置換反応によるニトロ化)。
設問の反応は下記のように進む。
芳香族求電子置換反応はスルホン化など一部を除きほとんどが不可逆反応である。
遷移状態のエネルギーの高さや中間体の安定性で反応速度が決まり、速度論的に進行する。
なお、発煙硫酸(濃硫酸に三酸化硫黄を溶解したもの)を使用すると、
+SO3Hが求電子剤として作用する芳香族求電子置換反応のスルホン化が進行する。
芳香族のスルホン化については下記のリンク先を参照
芳香族のスルホン化 88回問8d
◆ 2および3について
2 × アの部分は共鳴効果による電子求引性を示す。
→ 〇 アの部分は共鳴効果による電子供与性を示す。
3 × アの部分は誘起効果による電子供与性を示す。
→ 〇 アの部分は誘起効果による電子求引性を示す。
アミノ基(アミドのアミノ基を含む)は芳香環に対して電子供与性の共鳴効果(+R)と電子求引性の誘起効果(−I)を与えるが、+Rの方が−Iよりも強いため、結果として、芳香環に対して電子供与性の電子効果を与えることになる。
官能基の誘起効果・共鳴効果については下記のリンク先を参照
誘起効果・共鳴効果とは? 官能基(置換基)ごとに電子供与性・求引性を区別
◆ 4について
4 〇 アの部分のかさ高さのため、オルト置換体が得られにくい。
アミノ基(アミドのアミノ基を含む)は電子供与性共鳴効果(+R)によりオルト・パラ配向性を示すが、アミドのかさ高さによる立体障害のため、オルト位での置換反応は起こりにくい。よって、本問の反応ではパラ置換体が主生成物となる。
芳香族求電子置換反応の配向性・反応性については下記のリンク先を参照
芳香族求電子置換反応の配向性・反応性
◆ 5について
5 〇 Aの代わりにベンゼンを基質とすると反応は遅くなる。
Aのベンゼン環に置換するアミノ基(アミドのアミノ基を含む)は芳香環に対して総合的に電子供与性の電子効果を与えるため、Aは無置換ベンゼンに比べて芳香族求電子置換反応の反応性が高い。よって、Aの代わりに無置換ベンゼンを用いると、芳香族求電子置換反応は遅くなる。
★他サイトさんの解説へのリンク
第105回問104(e-RECさん)