アスピリンの懸濁液 擬0次反応と擬1次反応 83回薬剤師国家試験問166
83回薬剤師国家試験 問166
アスピリンの加水分解は水溶液の場合、擬一次速度過程に従うことが知られている。いま、微細にしたアスピリン結晶を水に懸濁し、一定温度に加温し、残存するアスピリンの全量を測定したところ、次の図のような結果が得られた。
この結果から下記の記述について、正しいものはどれか。
a A点まで直線となるのは、固体のアスピリンが溶解する速度と、溶解しているアスピリンが析出する速度が等しいからである。
b A点でアスピリンの固体は液中から消失した。
c A点までは、固体のアスピリンの加水分解の方が、溶解しているアスピリンの加水分解より速いため、見かけ上ゼロ次速度過程に従うような結果となる。
d A点から固体のアスピリンも、溶解しているアスピリンも、擬一次速度過程に従って加水分解しはじめた。
e A点まで直線となるのは、溶解しているアスピリンが加水分解して消失する分、固体のアスピリンが溶解して飽和濃度を保つからである。
83回薬剤師国家試験 問166 解答解説
(1)A点まで
と
(2)A点以降
に場合分けして解説する。
◆ (1)A点まで
a × A点まで直線となるのは、固体のアスピリンが溶解する速度と、溶解しているアスピリンが析出する速度が等しいからである。
c × A点までは、固体のアスピリンの加水分解の方が、溶解しているアスピリンの加水分解より速いため、見かけ上ゼロ次速度過程に従うような結果となる。
e 〇 A点まで直線となるのは、溶解しているアスピリンが加水分解して消失する分、固体のアスピリンが溶解して飽和濃度を保つからである。
グラフがA点までは右下がりの直線になっていることから、
A点までアスピリンの分解は0次反応に従っていると考えられる。
これは、A点までは、
アスピリンの含量が溶解度Cs以上であり、かつ、
溶解しているアスピリンの加水分解速度よりも固体のアスピリンの溶解速度の方が速いため、
アスピリンの加水分解速度が擬0次反応に従った結果だと考えられる。
以下、詳細
分解が1次反応(または擬1次反応)に従う薬物の懸濁液において、
薬物の含量(全薬物濃度:溶解しているものと溶解していないものを合わせた)が溶解度Cs以上であり、かつ、
溶解速度が分解速度よりも速い場合、
含量が溶解度Cs以下になるまで、
濃度は溶解度Csで一定に保たれる。
その間の薬物の分解反応の反応速度(ν擬0)は次式で表される。
ν擬0 = k1・Cs
Cs:溶解度(飽和濃度)
右辺のk1・Csは定数なので、
分解は見かけ上0次反応に従い進行する。
これを擬0次反応と呼ぶ。
よって、
擬0次反応の反応速度(ν擬0)は次式で表される。
ν擬0 =k擬0 = k1・Cs
k擬0:擬0次反応速度定数
k1:1次反応速度定数 Cs:溶解度(飽和濃度)
擬0次反応の含量Cと時間tの関係式は下記の通り。
C = C 0 − k擬0・t
分解が擬0次反応に従う場合、時間tに対して含量Cをプロットすると、
傾きが−k擬0(= −k1・Cs)の右下がりの直線となる。
◆ (2)A点以降
b 〇 A点でアスピリンの固体は液中から消失した。
d × A点から固体のアスピリンも、溶解しているアスピリンも、擬一次速度過程に従って加水分解しはじめた。
→ 〇 A点で固体のアスピリンは消失し、A点から溶解しているアスピリンは擬一次速度過程に従って加水分解しはじめた。
グラフはA点を境に直線から曲線にかわっているので、
A点で、アスピリンの含量(全薬物濃度)=溶解度Csとなり、
固体のアスピリンは液中から消失したと考えられる。
A点以降、分解は擬一次反応に従ったと考えられ、
速度式は下記のようになる。
ν擬1 = k擬1・[アスピリン]
以下、加水分解の擬一次反応について解説する。
下記のアスピリンの加水分解反応について、
アスピリン + H2O → サリチル酸 + 酢酸
アスピリンの加水分解の反応速度(ν)は、
本来、下記の2次反応速度式で表される。
ν = k・[アスピリン]・[H2O] …@
ここで、H2Oは大量にあり、
[H2O]は変化しないと考えられるため、
@式のk・[H2O]は一定とみなせる。
そこで、@式において、k・[H2O]= k擬1 とすると、
アスピリンの加水分解の速度式は、下記のA式の擬一次反応として表される。
ν擬1 = k擬1・[アスピリン] …A