特殊酸塩基反応の速度定数とpHプロファイル 94回薬剤師国家試験問167a
94回薬剤師国家試験 問167a
医薬品の安定性に関する記述の正誤を判定してみよう。
a 特殊酸塩基触媒反応において、分解速度定数の常用対数を溶液のpHに対してプロットすると、H3O+が触媒作用を示す範囲では+1、OH−が触媒作用を示す範囲では−1の傾きをもつ直線が得られる。
94回薬剤師国家試験 問167a 解答解説
a × 特殊酸塩基触媒反応において、分解速度定数の常用対数を溶液のpHに対してプロットすると、
H3O+が触媒作用を示す範囲では+1、
OH−が触媒作用を示す範囲では−1の傾きをもつ直線が得られる。
→ ○ 特殊酸塩基触媒反応において、分解速度定数の常用対数を溶液のpHに対してプロットすると、
H3O+が触媒作用を示す範囲では−1の傾きをもつ直線が得られ、
OH−が触媒作用を示す範囲では+1の傾きをもつ直線が得られる。
特殊酸塩基触媒反応のpHプロファイルは下記の通り。
以下、詳細
特殊酸触媒反応とは、H3O+が酸触媒となる反応であり、
特殊塩基触媒反応とは、OH−が塩基触媒となる反応である。
薬物の分解反応がH3O+とOH−の両方の触媒作用を受ける場合、
その反応を特殊酸塩基触媒反応と呼ぶ。
一般に、特殊酸塩基触媒反応の分解1次速度定数kは次の@式で表される。
k = kH [ H3O+ ] +kOH [ OH− ] …@
以下では、
酸性領域と塩基性領域で場合分けし、
反応速度定数kについて考える。
◆ 酸性領域でのkの式
pHの低い酸性領域では、
[ OH− ]は非常に小さく、
H3O+のみが触媒作用を示す。
よって、@について、
kOH・[ OH− ]は無視できるので、
k = kH ・[ H3O+ ] …A
と考えられる。
A式の両辺を常用対数とすると、
logk = log(kH・ [ H3O+ ])
= logkH + log [ H3O+ ]
pH = −log [ H3O+ ] より、
logk = logkH − pH …B
したがって、B式より、
特殊酸塩基触媒反応について、
H3O+が触媒作用を示す範囲では、
溶液のpHに対してlogkをプロットすると、
傾きが−1の直線が得られる。
◆ 塩基性領域でのkの式
pHの高い塩基性領域では、
[ H3O+ ]は非常に小さく、
OH−のみが触媒作用を示す。
よって、@について、
kH [ H3O+ ]は無視できるので、
k = kOH ・[ OH− ] …C
と考えられる。
C式の両辺を常用対数とすると、
logk = log(kOH ・[ OH− ])
= logkOH + log [OH− ]
[ OH− ] = Kw/ [ H3O+ ]より、
logk = logkOH + log (Kw/ [H3O+])
= logkOH + log Kw − log [H3O+]
ここで、pH = −log [H3O+ ] より、
logk = logkOH + log Kw + pH …D
したがって、D式より、
特殊酸塩基触媒反応について、
OH−が触媒作用を示す範囲では、
溶液のpHに対してlogkをプロットすると、
傾きが+1の直線が得られる。
◆ 薬物を最も安定に保存できる点
分解が特殊酸塩基触媒反応に従う薬物のlogkをpHに対してプロットして得た直線において、
薬物を最も安定に保存できる点は、
加水分解速度定数が最小となる点(logkが最小となる点)である。
その点では、次式が成り立つ。
kH・[ H+ ]=kOH・[ OH− ]
または、
logkH − pH = logkOH + log Kw + pH
これらの等式より、
薬物を最も安定に保存できるpHを求めることができる。