薬剤師国家試験過去問題集 製剤の種類と特性

BOT療法とインスリンデテミル 103回薬剤師国家試験問268,269

103回薬剤師国家試験 問268?269
55歳男性。10年前に2型糖尿病と診断され、生活習慣の改善とナテグリニドの服用を開始した。5年前にHbA1c 値が8.4%まで上昇したため、メトホルミン塩酸塩が追加され、その後増量されて以下の処方となった。

 

インスリンデテミルとBOT療法 103回薬剤師国家試験問268,269

 

 

問268(実務)
この患者は、処方1による治療を行っていたが、血糖コントロール不良状態が3ヶ月続いたため、以下のインスリン製剤を追加することになった。

 

インスリンデテミルとBOT療法 103回薬剤師国家試験問268,269

 

この患者に対する服薬指導に関する記述のうち、適切なのはどれか。2つ選びなさい。
1 インスリン デテミルが追加になりましたので、これまで処方されていたナテグリニドの服用は中止になります。
2 膵臓のインスリン分泌能がなくなってしまったため、インスリン製剤が必要となりました。
3 なるべく同じ部位で、少しずつずらした場所に注射してください。
4 体重増加しやすくなりますので、食事・運動療法をしっかり行いましょう。
5 インスリン デテミルは基礎インスリンを補充するものなので、低血糖に注意する必要はありません。

 

 

問269(薬剤)
インスリン デテミルに関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選びなさい。
1 速効型のインスリン製剤である。
2 皮下注射後、等電点沈殿に伴い微結晶になり、ゆっくりと溶解して血中に移行する。
3 ヒトインスリンにミリスチン酸基を付加し、血漿中のアルブミンとの結合を利用して作用の持続化を図っている。
4 投与ごとの血糖降下作用のばらつきが少なく、安定した血糖コントロールが期待できる。
5 等張化剤としてD-グルコースが用いられている。

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103回薬剤師国家試験 問268(実務) 解答解説

 

インスリンデテミルとBOT療法 103回薬剤師国家試験問268,269

 

インスリンデテミルとBOT療法 103回薬剤師国家試験問268,269

 

◆ 1,2について
1 × インスリン デテミルが追加になりましたので、これまで処方されていたナテグリニドの服用は中止になります。
インスリンデテミル(レベミル注)が追加になるが、メトホルミン塩酸塩錠とナテグリニド錠の服用は継続する。

 

2 × 膵臓のインスリン分泌能がなくなってしまったため、インスリン製剤が必要となりました。
インスリン分泌能が低下している可能性はあるが、インスリン分泌能が無くなっているわけではない。

 

本問の症例は、経口血糖降下薬のみでは血糖コントロール不良である患者に対し、持効型インスリンを追加し、
経口薬と持効型インスリンの併用で血糖値の改善を目指すものである。
この治療法をBOT療法(Basal Supported Oral Therapy)と呼ぶ。
持効型インスリンを投与して基礎インスリンを補充することで、膵臓のβ細胞を休ませ、
β細胞の機能の回復を図る。

 

 

◆ 3について
3 〇 なるべく同じ部位で、少しずつずらした場所に注射してください。

 

インスリンの自己注射は、上腕、大腿、腹部、臀部等に皮下注射する。
投与部位により吸収速度が異なるので部位を決め、その中で注射箇所を毎回変えること。前回の注射箇所より2〜3cm離して注射すること。
例えば、注射部位を腹部と決めたら毎回腹部に打つが、前回打った箇所から2〜3cm離して打つ。

 

前回の注射箇所から2〜3cm離す理由は、同一箇所への繰り返し投与により、皮膚アミロイドーシス又はリポジストロフィーを引き起こすことがあるためである。これらの病変が起こった場合、皮膚の腫瘤や硬結を認め、インスリンの吸収が妨げられることがある。

 

また、お腹に注射する場合は、おへそから5cmは離す。その理由は、おへそ近辺の皮膚は線維組織が多く、インスリンの吸収のばらつきが大きいためである。

 

 

◆ 4について
4 〇 体重増加しやすくなりますので、食事・運動療法をしっかり行いましょう。

 

インスリンは細胞による脂肪とタンパク質の合成を促す作用があるので、
インスリンを投与すると体重増加しやすくなる。
また、血糖が降下すると空腹感を感じやすくなり、食欲が増すことも体重増加につながる。

 

 

◆ 5について
5 × インスリン デテミルは基礎インスリンを補充するものなので、低血糖に注意する必要はありません。
いずれのインスリン製剤でも低血糖に注意する必要がある。

 

 

103回薬剤師国家試験 問269(薬剤) 解答解説

 

◆ 1について
1 × 速効型のインスリン製剤である。
インスリンデテミル(レベミル注)は持効型のインスリン製剤である。

 

 

◆ 2について
2 × 皮下注射後、等電点沈殿に伴い微結晶になり、ゆっくりと溶解して血中に移行する。
これはインスリングラルギン(ランタス注)の作用である。

 

インスリングラルギン製剤であるランタス注の添付文書の作用機序の項に以下の記述がある。
「インスリングラルギンは中性のpH領域で低い溶解性を示すように設計されたヒトインスリンアナログである。インスリングラルギンの注射剤である本剤は約pH4の無色澄明な溶液であるが、皮下に投与すると直ちに生理的pHにより微細な沈殿物を形成する。皮下に滞留したこの沈殿物からインスリングラルギンが緩徐に溶解し、皮下から血中に移行することから、24時間にわたりほぼ一定の濃度で明らかなピークを示さない血中濃度推移を示す。」

 

 

◆ 3,4について
3 〇 ヒトインスリンにミリスチン酸基を付加し、血漿中のアルブミンとの結合を利用して作用の持続化を図っている。

 

4 〇 投与ごとの血糖降下作用のばらつきが少なく、安定した血糖コントロールが期待できる。

 

インスリンデテミル製剤であるレベミル注の添付文書の作用機序の項に以下の記述がある。
「インスリンデテミルは、ヒトインスリンB鎖29位のリジンにC14脂肪酸側鎖を結合させ、アルブミンと親和性を示すように設計されたインスリンアナログである。この脂肪酸側鎖が、インスリンデテミル六量体間の自己会合を促すことと、皮下注射部位においてアルブミンと結合することから、投与部位からの吸収は緩徐となる。
また、血中においては、インスリンデテミルの98%以上がアルブミンと結合し平衡状態となるため、組織への拡散及び毛細血管壁の透過が可能な非結合型インスリンデテミルの濃度は低く保たれ、インスリンデテミルの末梢の標的組織への分布は緩徐である。これらのメカニズムにより、インスリンデテミルはヒトにおいてNPHヒトインスリンと比較し緩徐な薬物動態及び代謝作用を示す。」

 

 

◆ 5について
5 × 等張化剤としてD-グルコースが用いられている。

 

インスリン製剤の等張化剤には専ら濃グリセリンが用いられる。
D-グルコースは血糖値が上昇するので、インスリン製剤の等張化剤には用いられない。
また、塩化ナトリウムは強熱残分試験法に支障をきたすため、
ブドウ糖は血糖値を上昇させるため、インスリン注射の等張化剤としては用いられない。

 

関連問題
インスリン注射液の等張化剤には専ら濃グリセリンが使用される 96回問175a

 

 

★ 他サイトさんの解説リンク
103回問266〜269(e-RECさん)

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