炭素酸(炭化水素)の軌道のs性と酸性度 薬剤師国家試験94回問4a
第94回薬剤師国家試験 問4a
下記の3つの物質を酸性度の強いものから並べなさい。
H3C−CH3
H2C=CH2
HC≡CH
第94回薬剤師国家試験 問4a 解答解説
炭素酸の酸性度について、
炭素の混成軌道のs性が高いほど酸性度は強い。
よって、
酸性度の強いものから、
HC≡CH >
H2C=CH2 >
H3C−CH3
である。
★ 炭素酸の軌道のs性と酸性の強さの関係
炭化水素がH+を放出して酸として働く時、これを炭素酸という。
炭素酸(HC)はH+を放出してC:‐となるので、C:‐が炭素酸の共役塩基である。
共役塩基であるC:‐の安定性が高い、または、塩基性が弱いほど、元の炭素酸(HC)の酸性度は強いことになる。
共役塩基の非共有電子対の軌道のs性が高いほど、非共有電子対は供与されにくいため、共役塩基の塩基性は弱い。
よって、共役塩基の非共有電子対の軌道のs性が高いほど、酸の酸性度は強いことになる。
したがって、炭素酸は炭素の混成軌道のs性が高いほど酸性が強い。
炭素酸の軌道のs性と酸性度の関係は下記の通り。
以上より、アセチレン,エチレン,エタンの混成軌道のs性と酸性度の強さは下記の通り。
以下、補足説明
本問の炭素酸(HC)の酸性度の強弱の比較においては、
共役塩基(C:‐)の非共有電子対が入る軌道のs性の高さと共役塩基の塩基性の関係がポイントである。
詳細は下記のリンク先を参照
非共有電子対の軌道と塩基性 82回問2ab
★ 共役塩基(A:‐)の非共有電子対が入る軌道のs性が高いほど共役塩基の塩基性が低く、酸(HA)の酸性度は強い。
上記の理由を以下に示す。
電子の混成軌道はそのs性が高いほど原子核に近い軌道である。
非共有電子対の軌道のs性と塩基性について、非共有電子対はそれが入っている軌道のs性が高いほど原子核に強く引き寄せられており、供与されにくく塩基性が弱くなる。
よって、共役塩基(A:‐)はその非共有電子対の軌道のs性が高いほど塩基性が弱く、その酸(HA)の酸性度は強い。
以上のことから、
共役塩基(A:‐)の非共有電子対のs性と共役塩基の塩基性および酸(HA)の酸性度の関係は次の通りである。
・ 共役塩基(A:‐)の供与可能な非共有電子対がs性の高いsp混成軌道に入っていると、共役塩基は非共有電子対が供与されにくいことから塩基性は弱く、結果、酸(HA)の酸性度は強いことになる。
・ 共役塩基(A:‐)の供与可能な非共有電子対がs性の低いsp3混成軌道に入っていると、共役塩基は非共有電子対が供与されやすいことから塩基性は強く、結果、酸(HA)の酸性度は弱いことになる。
以上より、
混成軌道のs性の高さは、
高いものからsp>sp2>sp3であるので、
炭素酸の酸性度は、
高いものからsp>sp2>sp3である。
★参考外部サイトリンク
酸・塩基の定義(猫でもわかる有機化学さん)