芳香族カルボン酸の置換基による酸性の変化 96回薬剤師国家試験問7c
96回薬剤師国家試験 問7c
メトキシ基及びニトロ基による置換基効果について、
下記A〜Cのカルボン酸を酸性の強いものから並べなさい。
96回薬剤師国家試験 問7c 解答解説
酸の酸性度とその共役塩基の塩基性・安定性の関係は以下の通り。
・酸の酸性が強い⇔共役塩基の塩基性が弱い、または、共役塩基の安定性が高い
・酸の酸性が弱い⇔共役塩基の塩基性が強い、または、共役塩基の安定性が低い
本問のカルボン酸の共役塩基の安定性は、
以下に示す通り、高いものから、
C>A>B である。
よって、本問のカルボン酸は、
酸性の強いものから、
C>A>B である。
以下、詳細説明
酸の酸性度を比較するには、
その共役塩基の塩基性または安定性を比較すれば良い。
本問では、置換基による電子効果が、
芳香族カルボン酸の物質の酸性度に与える影響を考える。
官能基の電子効果については
下記のリンク先を参照
誘起効果・共鳴効果とは
化合物中のある水素の酸性度について、
置換基の電子効果と共役塩基の安定性・塩基性の関係は下記の通り。
・ 置換基により電子供与性電子効果が与えられる場合、
共役塩基の負電荷の非局在化の度合いは低くなり、
共役塩基の安定性は低くなるため、
酸の酸性度は弱くなる(酸解離定数Kaは小さく、pKaは大きくなる)。
・ 置換基により電子求引性電子効果が与えられる場合、
共役塩基の負電荷の非局在化の度合いは高くなり、
共役塩基の安定性は高くなるので、
酸の酸性度は強くなる(Kaは大きく、pKaは小さくなる)。
◆ Bについて
Bでは、メトキシ基(−OCH3)がsp2炭素(芳香環)に置換している。
エーテルまたはアルコキシ基(−OR)は、sp炭素またはsp2炭素に結合した場合、
総合的に電子供与性電子効果を与える。
エーテルまたはアルコキシ基(−OR)は、sp炭素またはsp2炭素に結合した場合、
電子供与性共鳴効果(+R)と電子求引性誘起効果(−I)を与えるが、
+Rの方が−Iよりも強いため、総合的には電子供与性電子効果を与えることになる。
よって、Bでは、メトキシ基(−OCH3)の電子供与効果により、
カルボン酸の共役塩基(COO−)の負電荷の非局在化の度合いは低くなり、
共役塩基の安定性は低くなる。
したがって、Bのカルボン酸の酸性は、メトキシ基の電子供与性電子効果により、
弱くなる。
◆ Cについて
Cでは、ニトロ基がsp2炭素(芳香環)に置換している。
ニトロ基やシアノ基のO,N,Sの不飽和結合を含む置換基は、
sp炭素またはsp2炭素に結合した場合、
電子求引性誘起効果(−I)と電子求引性共鳴効果(−R)の両面から、
強力な電子求引性の電子効果を与える。
よって、Cでは、ニトロ基の電子求引効果により、
カルボン酸の共役塩基(COO−)の負電荷の非局在化の度合いは高くなり、
共役塩基の安定性は高くなる。
したがって、Cのカルボン酸の酸性は、ニトロ基の電子求引性電子効果により、
強くなる。
以上のことから、
本問のカルボン酸の共役塩基の安定性は、
高いものから、
C>A>B である。
したがって、本問のカルボン酸は、
酸性の強いものから、
C>A>B である。
本問は、置換基の種類による芳香族化合物の酸性の違いに関する問題だったが、
置換基の位置による芳香族化合物の酸性の違いが出題されたこともある。
下記のリンク先を参照
o-ニトロフェノールとm-ニトロフェノールの酸性の比較 82回問14ab
★参考外部サイトリンク
酸・塩基の定義(猫でもわかる有機化学さん)