芳香族アミンの置換基と塩基性の関係 薬剤師国家試験84回問13
第84回薬剤師国家試験 問13
次のアニリン及びその誘導体について、塩基性の強い順に並べなさい。
第84回薬剤師国家試験 問13 解答解説
正解は塩基性が強いものから、
d>a>b>c である。
アミンの塩基性について、供与可能な非共有電子対を有するN原子の電子密度が高いほど塩基性は強い。
アニリンは芳香環にアミノ基が置換しているものだが、これを芳香族アミンと呼ぶ。
★ 置換基による芳香環の電子密度と芳香族アミンの塩基性の変化
置換基による芳香環の電子密度の序列は下記の通り。
なお、
+Iは電子供与性誘起効果、−Iは電子求引性誘起効果
+Rは電子供与性共鳴効果、−Rは電子求引性共鳴効果
を表す。
芳香族アミンのN原子の電子密度および塩基性と官能基の芳香環に対する電子効果の関係について述べる。
・ 官能基による電子供与性の電子効果で芳香環の電子密度が高くなれば、芳香族アミンのN原子の電子密度も高くなり、芳香族アミンの塩基性は強くなる。
・ 官能基による電子求引性の電子効果で芳香環の電子密度が低くなれば、芳香族アミンのN原子の電子密度も低くなり、芳香族アミンの塩基性は弱くなる。
よって、置換基ごとの芳香族アミンの塩基性の強さの序列は下記の通り。
以上より、
設問のアニリンとその誘導体の環の電子密度と塩基性の序列は下記の通り。
以下、補足説明
◆ b:ハロゲンの置換と芳香族アミンの塩基性
ハロゲンは芳香環に対して電子供与性の共鳴効果(+R)と電子求引性の誘起効果(−I)を与えるが、ハロゲンでは−Iの方が+Rよりも強いため、結果として、芳香環に対して電子求引性の電子効果を与えることになる。
よって、ハロゲンのBrが結合するbの芳香族アミンでは、ハロゲンの芳香族化合物に対する電子求引性の電子効果により、芳香環およびアミンのN原子の電子密度が低下し、芳香族アミンの塩基性は弱くなっている。
◆ c:ヘテロ不飽和結合置換基と芳香族アミンの塩基性
ニトロ基やシアノ基(CN)等の不飽和結合を含む置換基は芳香族化合物に対して電子求引性誘起効果(−I)と電子求引性共鳴効果(−R)の両面から電子求引性の電子効果を与える。
よって、ニトロ基(−NO2)が結合するcの芳香族アミンでは、ニトロ基の芳香族化合物に対する電子求引性の電子効果により、芳香環およびアミンのN原子の電子密度が低下し、芳香族アミンの塩基性は弱くなっている。
◆ d:ヒドロキシ基,エーテル,アミノ基の置換と芳香族アミンの塩基性
メトキシ基(−OCH3)は芳香族化合物に対して電子供与性共鳴効果(+R)による電子供与性の電子効果を与える。
メトキシ基は電子求引性誘起効果(−I)も与えるが、芳香環の場合、電子供与性共鳴効果(+R)が−Iを上回るので、結果として、メトキシ基は芳香族化合物に対して電子供与性の電子効果を与えることになる。
メトキシ基(−OCH3)が結合するdの芳香族アミンでは、メトキシ基の芳香族化合物に対する電子供与性の電子効果により、芳香環およびアミンのN原子の電子密度が高まり、芳香族アミンの塩基性は強くなっている。
◆ bとcの比較について
ニトロ基やシアノ基などの不飽和結合を含む置換基は電子求引性誘起効果(−I)と電子求引性共鳴効果(−R)の両面から電子求引性電子効果を与えるのに対し、ハロゲンは芳香族化合物に対して総合的には電子求引性誘起効果(−I)による電子求引性電子効果を与えるが、共鳴効果は電子供与性(+R)である。
よって、芳香族化合物に与える電子求引性電子効果は、ニトロ基の方がハロゲンよりも強力である。
したがって、ニトロ基が置換するcの方がハロゲンが置換するbよりもNの電子密度が低く、塩基性が弱い。
以上より、置換基ごとの芳香族アミンの塩基性の強さの序列は下記の通り。
★参考外部サイトリンク
酸・塩基の定義(猫でもわかる有機化学さん)