熱性けいれんの坐剤の使用方法 109回薬剤師国家試験問278−279
109回薬剤師国家試験 問278−279
1歳6ケ月女児。体重10kg。昼過ぎから発熱(38 ℃)のため、一般用医薬品の解熱剤を服用させていたが、夜間、急速に熱が上がり、同時に15〜20分続く痙れんが起こったため、夜間対応している近所の小児科を受診し、処置により症状は安定した。翌日、小児科を再受診し、父親が以下の処方箋(処方1及び2)を持って薬局を訪れた。薬剤師が父親と面談したところ、患児は、8ケ月前にも発熱後に痙れんを起こし、今回と同じ小児科を受診したが、坐剤を2種類処方されたのは初めてとのことであった。
問278(実務)
薬剤師が患児の父親に、坐剤の使用方法について説明した。その内容として誤っているのはどれか。1つ選びなさい。
1 坐剤を挿入した後は、4〜5秒程度押さえてください。
2 坐剤を併用する場合、処方1、2の順に間をあけずに挿入してください。
3 できるだけ排便後に挿入してください。
4 挿入しにくい場合には、水で少し濡らしてから挿入してください。
5 挿入後2〜3分間は、できる限りそのままの姿勢でいさせてください。
問279(薬剤)
処方1及び2の坐剤に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選びなさい。
1 処方1の基剤は、マクロゴール400とマクロゴール4000を1:1で混合したものである。
2 処方1の基剤は、直腸内で体温により溶融して薬物を放出する。
3 処方2の基剤は、モノ、ジ、トリグリセリドの混合物である。
4 処方2の基剤は、直腸内の水分で溶解して薬物を放出する。
5 いずれの坐剤も薬物の肝初回通過効果を回避できる。
109回薬剤師国家試験 問278(実務) 解答解説
熱性けいれんで使用する坐剤に関する問題である。
坐剤の使用方法の説明として誤っているのは、
選択肢2の「坐剤を併用する場合、処方1、2の順に間をあけずに挿入してください」である。
ジアゼパム坐剤とアセトアミノフェン坐剤を併用する場合、
先にジアゼパム坐剤を挿入し、
少なくとも30分、できれば1時間以上の間隔あけて、
アセトアミノフェン坐剤を挿入する。
アセトアミノフェン坐剤の基剤のハードファットは、油脂性基剤である。
ジアゼパム坐剤(ダイアップ坐剤)の基剤のマクロゴールは、ポリエチレングリコールのことであり親水性基剤である。
ジアゼパムは脂溶性であるため、先にアセトアミノフェン坐剤を投与し、後でジアゼパム坐剤を投与すると、先に投与したアセトアミノフェン坐剤のハードファットにジアゼパムが分配し、ジアゼパムの吸収が低下してしまう。
また、先にジアゼパム坐剤を挿入し、間をあけずにアセトアミノフェン坐剤を挿入した場合も、同様にアセトアミノフェン坐剤のハードファットにジアゼパムが分配し、ジアゼパムの吸収が低下してしまう。
そのため、先にジアゼパム坐剤を挿入し、ジアゼパムが吸収されるよう30分以上経過してから、アセトアミノフェン坐剤を挿入する。
以下、他の選択肢について
◆ 1について
1 〇 坐剤を挿入した後は、4〜5秒程度押さえてください。
5 〇 挿入後2〜3分間は、できる限りそのままの姿勢でいさせてください。
坐薬は直腸粘膜に投与するので、衛生のため、直に指で持つのではなく、
清潔なティッシュペーパーやガーゼ等を介して持つのが望ましい。
両足を持ち上げ、坐薬を肛門内に深く挿入する。
挿入後は4〜5秒程度押さえておき、坐薬が戻ってくるのを防ぐ。
その後、上げていた足をもとに戻すと、自然と坐薬が奥まで入る。
挿入後2〜3分間は、できる限りそのままの姿勢を保ち、坐薬を直腸内に留める。
すぐに姿勢を変えることにより、坐薬が肛門に戻ってくる場合がある。
◆ 3について
3 〇 できるだけ排便後に挿入してください。
坐剤を挿入すると、刺激により排便が誘発されやすい。
坐薬を挿入後、すぐに排便があると、有効成分が十分吸収される前に坐薬が排出されてしまうので、
坐薬を挿入する前にできるだけ排便を済ませておく。
冷所保存の坐薬は、冷たいまま挿入すると刺激が強いので、
室温で30分放置したり、手で温めたりしてから挿入すると良い。
坐薬が排出された場合、指で持てる状態であれば入れなおす。
指で持てない状態ならば、有効成分が十分に吸収されている可能性があるので、
すぐに新しい坐薬を入れなおすことはせず、1時間くらい様子を見る。
症状に改善が見られないようなら、新しい坐薬を入れなおす。
◆ 4について
4 〇 挿入しにくい場合には、水で少し濡らしてから挿入してください。
坐薬に水やベビーオイル,オリーブオイルを少しつけると、
滑りやすくなり、挿入しやすくなる。
109回薬剤師国家試験 問279(薬剤) 解答解説
◆ 1について
1 × 処方1の基剤は、マクロゴール400とマクロゴール4000を1:1で混合したものである。
マクロゴール400とマクロゴール4000を1:1で混合したものは、
マクロゴール軟膏であり、塗り薬の水溶性基剤として用いられる。
マクロゴールは平均分子量によって室温での性状が異なり、
平均分子量が1000以下では液状であり、
平均分子量が1000以上では固形状である。
マクロゴール400は、室温で液状なので、
坐剤の基剤としては用いられないと推測できる。
◆ 2について
2 × 処方1の基剤は、直腸内で体温により溶融して薬物を放出する。
ジアゼパム坐剤(ダイアップ坐剤)は、
水溶性基剤のマクロゴールを用いた坐剤であり、
直腸内の分泌液などの水分に基剤が溶解し、有効成分を放出する。
◆ 3について
3 〇 処方2の基剤は、モノ、ジ、トリグリセリドの混合物である。
ハードファット(ウィテプゾール)は、C12〜C18の飽和脂肪酸のモノ、ジ、トリグリセリド(グリセリン脂肪酸エステル)の混合物であり、結晶多形が存在しない特徴を持つ。
◆ 4について
4 × 処方2の基剤は、直腸内の水分で溶解して薬物を放出する。
ハードファット(ウィテプゾール)等の油脂性基剤を用いた坐剤は、
直腸内の体温により溶融し、有効成分を放出する。
関連問題
ハードファット(ウィテプゾール) を用いた坐剤の特性 100回問279
◆ 5について
5 〇 いずれの坐剤も薬物の肝初回通過効果を回避できる。
直腸下部から吸収された薬物は、
その多くが門脈を通らずに全身循環に入るため、
肝初回通過効果を回避できる。
よって、坐剤で投与することにより、
薬物の肝初回通過効果を回避できる。
なお、直腸上部から吸収される薬物は、
門脈を通るため、肝初回通過効果を受ける。
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