イトラコナゾールによる爪白癬の治療と睡眠薬の併用 97回薬剤師国家試験問292-293
97回薬剤師国家試験 問292−293
45歳女性。皮膚科クリニックで爪白癬と診断され、以下の処方せんを持って薬局を訪れた。
問292(実務)
この患者の疾患とその薬物治療に関する記述のうち、適切なのはどれか。
2つ選びなさい。
1 定期的な肝機能検査を行う。
2 食直後の服薬は、イトラコナゾールの吸収を阻害するので、疑義照会をする必要がある。
3 内服に比べ、静脈内注射が推奨される。
4 服薬終了後は、3週間の休薬が必要である。
問293(病態・薬物治療)
この患者が「最近寝つきが悪く、よく眠れないので困っている」と訴えたので、
近医を紹介したところ、睡眠薬の処方について問い合わせがあった。
推奨できる薬物として、最も適切なのはどれか。1つ選びなさい。
1 トリアゾラム
2 ロルメタゼパム
3 アルプラゾラム
4 フルニトラゼパム
5 エチゾラム
97回薬剤師国家試験 問292 解答解説
本問は、爪白癬に対するイトラコナゾールの内服によるパルス療法に関する問題である。
選択肢の記述のうち、適切なのは、
1の「定期的な肝機能検査を行う」と、
4の「服薬終了後は、3週間の休薬が必要である」である。
◆ 4について
4 〇 服薬終了後は、3週間の休薬が必要である
爪白癬に対するイトラコナゾールのパルス療法は、
イトラコナゾールのカプセル剤、または、錠剤により行われ、
通常、成人にはイトラコナゾールとして1回200mgを1日2回食直後に1週間経口投与し、その後3週間休薬する。これを1サイクルとし、3サイクル繰り返す。
◆ 1について
1 〇 定期的な肝機能検査を行う
イトラコナゾールの投与により、
肝障害、胆汁うっ滞、黄疸があらわれることがあるので、
定期的に肝機能検査を行う必要がある。
なお、重篤な肝疾患の現症、既往歴のある患者は、
不可逆的な肝障害におちいるおそれがあるため、イトラコナゾールは投与禁忌である。
◆ 2について
2 × 食直後の服薬は、イトラコナゾールの吸収を阻害するので、疑義照会をする必要がある。
イトラコナゾールのカプセル剤、または、錠剤の添付文書上の用法は食直後である。
イトラコナゾールカプセルを食直後に服用した場合、
空腹時に服用した場合に比べ、イトラコナゾールのCmaxとAUCが高く、
バイオアベイラビリティが高いとの報告がある。
この理由について、以下のことが推定されている。
・イトラコナゾールは塩基性薬物であることから、酸性条件で溶解度が高いため、
食事で胃酸分泌量が増加すると、
イトラコナゾールの溶解性が上昇し、消化管吸収率が高まる。
・イトラコナゾールは脂溶性が高い薬物であることから、
食物中の脂肪によりイトラコナゾールの溶解性が上昇し、消化管吸収率が高まる。
◆ 3について
3 × 内服に比べ、静脈内注射が推奨される。
爪白癬の治療には、抗真菌薬の内用剤か外用剤が用いられ、
注射剤は用いられない。
97回薬剤師国家試験 問293 解答解説
イトラコナゾールを服用中の患者において、
推奨できる睡眠薬として、最も適切なのは、
選択肢2のロルメタゼパムである。
イトラコナゾールは、
CYP阻害作用及びP糖蛋白阻害作用を示す。
構造中にイミダゾール環やトリアゾール環などの含窒素複素環を有する化合物は、
複素環の窒素原子がCYPのヘム鉄に配位結合することにより、
CYPによる代謝を阻害する。
この機構によるCYPの阻害は、可逆的な阻害だと考えられている。
イトラコナゾールは、構造中にトリアゾール環を有しており、
CYPに対して、ヘム鉄への配位による可逆的阻害作用を示す。
イトラコナゾールは、特にCYP3A4に対する阻害作用が強い。
ロルメタゼパム(ロラメット,エバミール)は、
主に肝臓でグルクロン酸抱合され、
その後、腎臓から尿中排泄されて消失する。
そのため、CYPが阻害されても、
ロルメタゼパムの血中濃度は上昇しにくい。
他の選択肢のトリアゾラム,アルプラゾラム,フルニトラゼパム,エチゾラムは、
主に肝臓のCYP3A4による代謝で消失し(エチゾラムはCYP2C9の寄与も比較的大きい)、
イトラコナゾールの強いCYP3A4阻害作用により、
作用の増強及び作用時間の延長が引き起こされ、
その影響は著しいと考えられる。
強いCYP阻害作用を有する薬剤と併用する睡眠導入剤の候補として、
ロルメタゼパムの他、
ゾルピデム(マイスリー)とリルマザホン塩酸塩水和物(リスミー)がある。
ゾルピデムは、主に肝臓で代謝されて消失するが、
CYP3A4のほか、CYP2C9,CYP1A2 など複数の分子種により代謝される。
そのため、イトラコナゾールのCYP阻害作用が、
ゾルピデムの薬物動態に与える影響は、比較的小さい。
リルマザホンは、プロドラッグであり、体内で活性代謝物となるが、
活性代謝物は主にカルボキシエステラーゼで加水分解されて不活化されるので、
CYPが阻害されても、活性代謝物の血中濃度は上昇しにくい。
関連問題
イトラコナゾールとトリアゾラムの相互作用と代替薬 98回問238-239
★ 他サイトさんの解説リンク
97回問292,293(e-RECさん)