イトラコナゾールとトリアゾラムの相互作用と代替薬 98回薬剤師国家試験問238-239
98回薬剤師国家試験 問238−239
50歳男性。近医にて高血圧、不眠症のため以下の薬剤が処方され来局した。
問238(実務)
薬剤師が薬歴を確認したところ、他院より爪白癬のためイトラコナゾール錠が処方されており、服用中であった。そこで、今回の処方医に疑義照会を行い処方薬の変更を提案した。その内容として、最も適切なのはどれか。1つ選びなさい。
1 エナラプリルマレイン酸塩錠をテルミサルタン錠に変更
2 エナラプリルマレイン酸塩錠をニフェジピン錠に変更
3 トリアゾラム錠をゾルピデム錠に変更
4 トリアゾラム錠をゾピクロン錠に変更
5 トリアゾラム錠をジアゼパム錠に変更
問239(衛生)
変更の根拠となる相互作用の機序として、正しいのはどれか。1つ選びなさい。
1 PXRを介したCYP3A4の誘導
2 代謝物によるCYP3A4の活性化
3 代謝物によるCYP3A4の不可逆的阻害
4 CYP3A4のヘム鉄への配位による阻害
5 CYP3A4の分解促進
98回薬剤師国家試験 問238−239 解答解説
問238について
患者がイトラコナゾール錠を服用中であることから、
処方薬の変更の提案として、最も適切なのは、
選択肢3の「トリアゾラム錠をゾルピデム錠に変更」である。
問239について
変更の根拠となる相互作用の機序として、正しいのは、
選択肢4の「CYP3A4のヘム鉄への配位による阻害」である。
イトラコナゾール(イトリゾール)は、
CYP阻害作用及びP糖蛋白阻害作用を示す。
構造中にイミダゾール環やトリアゾール環などの含窒素複素環を有する化合物は、
複素環の窒素原子がCYPのヘム鉄に配位結合することにより、
CYPによる代謝を阻害する。
この機構によるCYPの阻害は、可逆的な阻害だと考えられている。
イトラコナゾールは、構造中にトリアゾール環を有しており、
CYPに対して、ヘム鉄への配位による可逆的阻害作用を示す。
イトラコナゾールは、特にCYP3A4に対する阻害作用が強い。
トリアゾラム(ハルシオン)は、主にCYP3A4で代謝されて消失する。
イトラコナゾールとトリアゾラムを併用すると、
イトラコナゾールのCYP3A4阻害作用により、トリアゾラムの代謝が阻害され、
トリアゾラムの作用の増強及び作用時間の延長が引き起こされ、
その影響は著しいと考えられる。
トリアゾラムの代替薬としては、
ゾルピデム(マイスリー)が候補の1つとして挙げられる。
ゾルピデムは、主に肝臓で代謝されて消失するが、
CYP3A4のほか、CYP2C9,CYP1A2 など複数の分子種により代謝されるので、
イトラコナゾールのCYP阻害作用が、
ゾルピデムの薬物動態に与える影響は、比較的小さい。
よって、イトラコナゾールとゾルピデムは併用可能である。
以下、他の選択肢の薬剤について
エナラプリル(レニベース)は、
主に腎臓から尿中に排泄されることで消失するので、
イトラコナゾール併用時に変更する必要はない。
ゾピクロン(アモバン)は、
主にCYP3A4で代謝されて消失するため、
トリアゾラムの代替薬として適切ではない。
ジアゼパム(セルシン,ホリゾン)は、
主にCYP3A4とCYP2C19で代謝されて消失するため、
トリアゾラムの代替薬として適切ではない。
強いCYP阻害作用を有する薬剤と併用する睡眠導入剤の候補として、
ゾルピデムの他、ロルメタゼパム(ロラメット,エバミール)と
リルマザホン塩酸塩水和物(リスミー)がある。
ロルメタゼパムは、主に肝臓でグルクロン酸抱合され、
その後、腎臓から尿中排泄されて消失する。
そのため、CYPが阻害されても、
ロルメタゼパムの血中濃度は上昇しにくい。
リルマザホンは、プロドラッグであり、体内で活性代謝物となるが、
活性代謝物は主にカルボキシエステラーゼで加水分解されて不活化されるので、
CYPが阻害されても、活性代謝物の血中濃度は上昇しにくい。
関連問題
イトラコナゾールによる爪白癬の治療と睡眠薬の併用 97回問292-293
★ 他サイトさんの解説リンク
98回問238,239(e-RECさん)