91回薬剤師国家試験問15 アセチルコリン、ムスカリン、アトロピンの構造及び性質
91回薬剤師国家試験 問15
アセチルコリン、ムスカリン、アトロピンの構造及び性質に関する記述の正誤を判定してみよう。
a アセチルコリンは酸性水溶液中で容易に加水分解されるが、塩基性水溶液中では安定である。
b アトロピンはl -ヒヨスチアミンのラセミ体である。
c ムスカリンの水酸基が結合する不斉炭素の立体配置は、酸性水溶液中で異性化しやすい。
d アトロピンの第三級窒素は、生体内でプロトン化され、受容体との結合において、アセチルコリンの第四級窒素と同じ働きをする。
91回薬剤師国家試験 問15 解答解説
◆ aについて
a × アセチルコリンは酸性水溶液中で容易に加水分解されるが、塩基性水溶液中では安定である。
アセチルコリンは、酸性条件・塩基性条件のどちらでもエステル結合が加水分解されやすく、
コリンと酢酸を生成する。
下記の点線の箇所が加水分解される。
◆ bについて
b 〇 アトロピンはl -ヒヨスチアミンのラセミ体である。
アトロピンは、互いにエナンチオマーであるl-ヒヨスチアミンとd-ヒヨスチアミンの等量混合物(ラセミ体)である。アトロピンはムスカリン性アセチルコリン受容体遮断作用(抗コリン作用)を示すが、この作用はl-ヒヨスチアミンによると考えられている。
天然に存在するのはl-ヒヨスチアミンであるが、抽出や貯蔵の過程でラセミ化すると考えられている。
◆ cについて
c × ムスカリンの水酸基が結合する不斉炭素の立体配置は、酸性水溶液中で異性化しやすい。
ムスカリンの水酸基が結合する不斉炭素の立体配置が異性化するには、この不斉炭素を反応中心としてSN1機構またはSN2機構により、既存の水酸基が他の水酸基に置き換わる求核置換反応が起こらなければならない。この不斉炭素は第2級なので、SN1反応,SN2反応が起こりやすいとはいえない。
SN1・SN2における基質と反応性の関係については下記のリンク先を参照
SN1・SN2 基質の構造と反応性 83回問7c
◆ dについて
d 〇 アトロピンの第三級窒素は、生体内でプロトン化され、受容体との結合において、アセチルコリンの第四級窒素と同じ働きをする。
アトロピンの三級窒素はプロトン化されて四級窒素となり陽イオンとなることで、ムスカリン性アセチルコリン受容体の陰イオンとイオン結合すると考えられる。
アトロピンはアセチルコリンと同様に、四級窒素となること、および、両剤のエステル結合と窒素の間の距離が同じ位であることから、アトロピンはムスカリン性アセチルコリン受容体に結合する。
しかし、アセチルコリンはアゴニスト(刺激剤)であるのに対して、アトロピンは受容体の競合的アンタゴニスト(遮断剤)であるのは、アトロピンはアセチルコリンと比べてかさ高く大きな構造をしているため、受容体に結合するものの、受容体の形を変えることができないからと考えられる。