パクリタキセルはセイヨウイチイに含まれる関連化合物から誘導 94回問11abd
94回薬剤師国家試験 問11abd
パクリタキセルに関する記述の正誤を判定してみよう。
a 本品は、セイヨウイチイ (Taxus baccata)に含まれる関連化合物から誘導して得られる。
b 本品は、ラクトン構造をもつ。
d 本品は、水に溶けやすい。
94回薬剤師国家試験 問11abd 解答解説
◆ aについて
a 〇 パクリタキセルは、セイヨウイチイ (Taxus baccata)に含まれる関連化合物から誘導して得られる。
下記のリンク先を参照
タキサン系抗癌剤(国立医薬品食品衛生研究所さん)
パクリタキセルは抗がん剤である。
微小管蛋白重合(チューブリンの重合)を促進することにより微小管の安定化・過剰形成を引き起こし、紡錘体の機能を障害することにより細胞分裂を阻害して抗腫瘍活性を発揮する。また、パクリタキセルは細胞周期をG2+M期でブロックすると考えられている。
◆ bについて
b × パクリタキセルは、ラクトン構造をもつ。
ラクトンとは環状エステルのことであるが、
パクリタキセルの構造中には存在しない。
ラクトンについては下記のリンク先を参照
ラクトンとは?
◆ cについて
c × 本品を構成するβ-アミノ酸部分の2つの不斉炭素の絶対配置は、いずれもRである。
不斉中心の絶対配置の判別の仕方については、下記のリンク先を参照
不斉中心の絶対配置の判別について
上記の不斉炭素の絶対配置は、
Cが奥側にあり、@ABが反時計回りに並んでいるのでSである。
上記の不斉炭素の絶対配置は、
Cが手前にあり、@ABが反時計回りに並んでいるのでRである。
◆ dについて
d × パクリタキセルは、水に溶けやすい。
パクリタキセルは分子全体として疎水性部分が多く、水に溶けにくい。
パクリタキセル注(タキソール注)は、溶解補助のために界面活性剤のポリオキシエチレンヒマシ油と無水エタノールが用いられている。
界面活性剤のポリオキシエチレンヒマシ油が使用されていることから、重篤な過敏症状の発現を防止するためにステロイドと抗ヒスタミン薬の前投薬が必要であり、また、点滴セットで可塑剤としてDEHP〔フタル酸ジ-(2-エチルヘキシル)〕を含有しているものはDEHPが溶出する恐れがあるので使用を避ける。
無水エタノールが使用されていることから、ジスルフィラム,シアナミド,カルモフール,プロカルバジン塩酸塩との併用は、アルコール反応(顔面潮紅、血圧降下、悪心、頻脈、めまい、呼吸困難、視力低下等)を起こすおそれがあるとして、禁忌となっている。
・本剤の希釈液は、過飽和状態にあるためパクリタキセルが結晶として析出する可能性があるので、本剤投与時には、0.22ミクロン以下のメンブランフィルターを用いたインラインフィルターを通して投与すること。
・輸液ポンプを使用して本剤を投与する場合は、チューブ内にろ過網(面積の小さなフィルター)が組み込まれた輸液セットを使用すると、まれにポンプの物理的刺激により析出するパクリタキセルの結晶がろ過網を詰まらせ、ポンプの停止が起こることがあるので、ろ過網が組み込まれた輸液セットは使用しないこと。
・本剤は非水性注射液であり、輸液で希釈された薬液は表面張力が低下し、1滴の大きさが生理食塩液などに比べ小さくなるため、輸液セットあるいは輸液ポンプを用いる場合は以下の1) 2)の点に十分注意すること。
1)
自然落下方式で投与する場合、輸液セットに表示されている滴数で投与速度を設定すると、目標に比べ投与速度が低下するので、滴数を増加させて設定する等の調整が必要である。
2)
滴下制御型輸液ポンプを用いる場合は、流量を増加させて設定する等の調整が必要である。
以上のように、
パクリタキセル注(タキソール注)は使用に際しての規定項目が多い。
そこで、人血清アルブミンで安定化されたパクリタキセルの懸濁液であるアブラキサン注が開発された。アブラキサン注は生理食塩液で用時懸濁して用いる凍結乾燥注射剤であり、ポリオキシエチレンヒマシ油と無水エタノールが用いられていないため、先述の使用に際しての規定項目はない。
ただし、アブラキサン注はアルブミンが使用されているため、懸濁する際はアルブミンの溶解に伴う気泡の生成を抑えるため生理食塩液をバイアルの壁に沿って緩除に注入すること、投与の際はインラインフィルターを使用しないこと、他の薬剤等との配合又は同じ静注ラインでの同時注入は避けることとされている。