ポリスチレンスルホン酸Caゼリー 服薬指導,化学的性質 106回薬剤師国家試験問206,207
106回薬剤師国家試験 問206?207
76歳男性。体重50kg。高血圧と心不全により入院となり、処方1が開始となった。入院時のeGFRは23.9 mL/min/1.73 m2 であったが、尿量が増加し浮腫も徐々に改善して、状態も安定してきた。1週間後、便秘に対し処方2が開始となった。さらに1週間後、血清カリウム値が5.6mEq/L と上昇したため、経口ゼリー剤Aを追加した。
問206
本症例において、注意する事項として正しいのはどれか。2つ選びなさい。
1 経口ゼリー剤Aを服用し忘れた場合、次回2回分服用する。
2 経口ゼリー剤A服用後、一度開封して残ったゼリーは冷所に保存する。
3 ジゴキシン中毒に注意する。
4 PT-INR 値で出血の危険性をモニターする。
5 排便状況を確認する。
問207
経口ゼリー剤Aの成分の化学的性質に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選びなさい。
1 水溶性が高い。
2 陰イオン性を持つ。
3 カリウムイオンを吸着する。
4 塩化物イオンを吸着する。
5 キレート作用を持つ。
106回薬剤師国家試験 問206 解答解説
eGFRは23.9 mL/min/1.73 m2、
血清カリウム値が5.6mEq/L
で追加された経口ゼリー剤Aは、腎不全に伴う高カリウム血症を改善するポリスチレンスルホン酸Ca経口ゼリーだと考えられる。
ポリスチレンスルホン酸Ca経口ゼリーは陽イオン交換樹脂製剤である。
添付文書中の作用機序の記載は下記の通り。
「経口投与後、消化・吸収されることなく、腸管内、特に結腸付近で、本剤のカルシウムイオンと腸管内のカリウムイオンが交換され、ポリスチレンスルホン酸樹脂としては何ら変化を受けることなしに、そのまま糞便中に排泄される。その結果腸管内のカリウムは体外へ除去される。」
◆ 1について
1 × 経口ゼリー剤Aを服用し忘れた場合、次回2回分服用する。
患者向医薬品ガイドの飲み忘れた場合の対応は下記の通り。
「決して2回分を一度に飲まないでください。気づいた時に、すぐ1回分を飲んでください。ただし、次に飲む時間が近い場合はその回は飲まずに、次の指示された時間に1回分を飲んでください。」
◆ 2について
2 × 経口ゼリー剤A服用後、一度開封して残ったゼリーは冷所に保存する。
開封後は速やかに服用し、残した場合には廃棄してもらう。
◆ 3について
3 〇 ジゴキシン中毒に注意する。
ポリスチレンスルホン酸Ca経口ゼリーの血清カリウム値低下作用により、ジギタリス中毒作用が増強されるおそれがある。ジゴキシンはNa+,K+-ATPaseを阻害し、Na+の流出を減少させ、細胞内Na+濃度を増加させる。これがNa+-Ca2+交換の原動力となり、結果として、細胞内Ca2+が増加し心筋収縮力が増加する。この作用は血清カリウム値の低下で増強されるので注意する(低カリウム血症、高カルシウム血症、低マグネシウム血症のある患者はジギタリス中毒になるリスクが高い)。
さらに、ジゴキシンの添付文書には、テルミサルタン(ミカルディス)との併用で、ジゴキシンの血中濃度が上昇するとの報告があり(機序不明)、ジゴキシンの作用を増強することがある。
◆ 4について
4 × PT-INR 値で出血の危険性をモニターする。
抗凝固薬のエドキサバントシル酸塩水和物錠(リクシアナ)が投与されており、エドキサバンはヒトの活性化血液凝固第X因子(FXa)を競合的かつ選択的に阻害し、ヒト血漿におけるPT、APTT及びトロンビン時間(TT)を延長する作用を示す。
しかし、添付文書において、プロトロンビン時間−国際標準比(PT-INR)や活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)等の通常の凝固能検査は、エドキサバントシル酸塩水和物錠(リクシアナ)の薬効をモニタリングする指標とはならないとの記載がある。
なお、プロトロンビン時間−国際標準比(PT-INR)を薬効モニタリングに用いるのは、ワルファリンカリウム(ワーファリン)である。
◆ 5について
5 〇 排便状況を確認する。
ポリスチレンスルホン酸Caは陽イオン交換樹脂のポリマー製剤である。
一般に、ポリマー製剤は消化管から吸収されないが、消化管に溜まってしまうと、腸閉塞、腸管穿孔、大腸潰瘍の重大な副作用を起こす恐れがある。
これに関して、添付文書中に下記の記載がある。
・腸管穿孔、腸閉塞、大腸潰瘍があらわれることがあるので、これらの病態を疑わせる高度の便秘、持続する腹痛、嘔吐、下血等の異常が認められた場合には、投与を中止し、適切な処置を行うこと。
・本剤を経口投与するにあたっては、患者に排便状況を確認させ、便秘に引き続き腹痛、腹部膨満感、嘔吐等の症状があらわれた場合には、医師等に相談するよう指導すること。
★ 陽イオン交換樹脂製剤とMg,Ca,Alの金属含有製剤との併用注意
陽イオン交換樹脂製剤は、非選択的にMg,Ca,Alの金属陽イオンとイオン交換する可能性がある。
そのため、陽イオン交換樹脂製剤とMg,Ca,Alの金属含有製剤との併用で、標的とするカリウムとのイオン交換が行われにくくなり、カリウム低下作用が減弱する恐れがある。
さらに、陽イオン交換樹脂製剤とMg,Ca,Alの金属含有製剤との併用で、腸管内に分泌された重炭酸塩の中和が妨げられ、全身性アルカローシスなどの症状があらわれたとの報告がある。
よって、陽イオン交換樹脂製剤とMg,Ca,Alの金属含有製剤は服用時間をずらすなど注意する。
★ 陽イオン交換樹脂製剤と甲状腺ホルモン製剤との併用注意
陽イオン交換樹脂とレボチロキシン(チラージン)などの甲状腺ホルモン製剤を併用すると、消化管内で甲状腺ホルモン製剤が吸着されて吸収が阻害されることで、甲状腺ホルモン製剤の効果が減弱することがあるので、服用時間をずらすなど注意する。
106回薬剤師国家試験 問207 解答解説
陽イオン交換樹脂製剤の基となるポリスチレンスルホン酸は、スルホン酸部分が陰イオンとなっており、陽イオンであるカリウムイオンとイオン結合を形成してこれを吸着する。
下記はポリスチレンスルホン酸Caがイオン交換によりカリウムイオンを吸着する様子である。
選択肢の記述の正誤は下記の通り。
1 × 水溶性が高い。
一般に、イオン交換樹脂製剤は、構造の大部分が疎水性の炭化水素基のため水溶性は低い。
2 〇 陰イオン性を持つ。
陽イオン交換樹脂は構造中に陰イオンとなる部分を持ち、陽イオンを吸着する。
一方、陰イオン交換樹脂は構造中に陽イオンとなる部分を持ち、陰イオンを吸着する。
下記は陰イオン交換樹脂製剤のコレスチラミン(クエストラン)の構造である。
陽イオンである4級アンモニウム構造を有する。
3 〇 カリウムイオンを吸着する。
4 × 塩化物イオンを吸着する。
陰イオンの塩化物イオンは吸着しない。
5 × キレート作用を持つ。
イオン交換樹脂が目的のイオンを吸着する要因はイオン結合であり、配位結合によるキレート形成ではない。
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第106回問206,207(e-RECさん)