エルデカルシトールの医薬品化学 109回薬剤師国家試験問215
109回薬剤師国家試験 問215
処方されたエルデカルシトール(C30H50O5)に関する記述として誤っているのはどれか。1つ選びなさい。
1 共役トリエン構造をもち、遮光保存が必要である。
2 ステロイド骨格を構成する環状構造の一部が開裂した構造をもつ。
3 C環とD環の結合は、trans 配置である。
4 本品は炭素数30に対しヒドロキシ基を4つ含み、水に溶けやすい。
5 標的受容体と結合する際、ヒドロキシ基は水素結合の形成に関与する。
109回薬剤師国家試験 問215 解答解説
◆ 1について
1 〇 共役トリエン構造をもち、遮光保存が必要である。
共役系とは、不飽和結合or非共有電子対を持つ原子or空軌道を持つ原子のいずれかと、単結合を交互に繰り返す構造である。共役トリエンとは、二重結合と単結合のセットが3つ連なった構造である。
エルデカルシトールには下記の通り共役トリエン構造がある。
長い共役系を有する化合物は、紫外可視領域の光を吸収し、
分解や変色などを起こすことがあるので、遮光保存が必要である。
◆ 2について
2 〇 ステロイド骨格を構成する環状構造の一部が開裂した構造をもつ。
エルデカルシトールは活性型ビタミンD3誘導体であるので、
ステロイド骨格のB環の9位と10位の間の結合が開裂した構造を持つ。
なお、生体内でのビタミンD3の生合成反応では、皮膚において、7−デヒドロコレステロール(プロビタミンD3)に紫外線のUVB(280〜320nm)が当たることで、ステロイド骨格のB環の9位と10位の間の結合が開裂し、プレビタミンD3が生成する。
このようにステロイド骨格が開裂した構造はセコステロイドと呼ばれ、ビタミンD3は9位と10位の間の結合が開裂した構造であることから、9,10−セコステロイドと呼ばれる。
◆ 3について
3 〇 C環とD環の結合は、trans 配置である。
エルデカルシトールのC環とD環のつなぎ目に結合する水素とメチル基がtrans配置なので、C環とD環の結合はtrans配置である。
ステロイド骨格のcis,transについては下記のリンク先を参照
ステロイド骨格のcis,transとは 93回問15b
◆ 4について
4 × 本品は炭素数30に対しヒドロキシ基を4つ含み、水に溶けやすい。
炭素が3に対しヒドロキシ基が1までの割合ならば水に溶けやすい。
エルデカルシトールは炭素数30に対しヒドロキシ基が4つであり、炭素数に対するヒドロキシ基の数の比率が低いので、水に溶けにくい。
◆ 5について
5 〇 標的受容体と結合する際、ヒドロキシ基は水素結合の形成に関与する。
活性型ビタミンD3がビタミンD3受容体に結合する際、活性型ビタミンD3の1α,3β,25の3つのヒドロキシ基と受容体が水素結合を形成する。また、血中でビタミンDの輸送を担うビタミンD結合タンパク質との結合においても、活性型ビタミンD3の3つのヒドロキシ基はタンパク質と水素結合を形成する。
エルデカルシトールは、活性型ビタミンD3の2β位に3-ヒドロキシプロピルオキシ基を導入したものであるが、1α,3β,25の3つのヒドロキシ基に加え、3-ヒドロキシプロピルオキシ基のヒドロキシ基もビタミンD受容体およびビタミンD結合タンパク質と水素結合を形成する。
なお、ステロイドの置換基の立体の表し方(α,β)について、ステロイド骨格が紙面上にある時、紙面から奥側(点線で書かれるもの)の置換基をα配置、紙面から手前側(太線で書かれるもの)の置換基をβ配置とするが、設問のような活性型ビタミンD3の構造式のA環では、紙面から手前側がα配置、紙面から奥側がβ配置となるので注意する。これはA環が反転しているためである。
ステロイドの置換基のα・β配置については下記のリンク先を参照
ステロイドの置換基の立体,α・β配置とは 93回問15a
★他サイトさんの解説へのリンク
109回問214,215(e-RECさん)