108回薬剤師国家試験問208,209 カペシタビンとオキサリプラチン併用療法における薬物相互作用
108回薬剤師国家試験 問208?209
68歳女性。切除不能の再発直腸がんに対して、カペシタビンとオキサリプラチン併用化学療法を開始することになった。外来化学療法室の薬剤師は、この患者にかかりつけ医から以下の薬剤が処方されていることを、お薬手帳より確認した。
なお、以下の薬剤は全て化学療法開始後も継続することとする。
問208(実務)
今回のがん化学療法の開始に伴い、薬物相互作用による重篤な副作用を回避するため、薬剤師が定期的にモニタリングすべき検査項目として、最も重要なのはどれか。1つ選びなさい。
1 血清鉄
2 尿酸
3 血清カルシウム
4 血清リン
5 PT−INR
問209(物理・化学・生物)
かかりつけ医から処方されている医薬品の構造を示す。その中でモニタリングすべき検査項目に関与する医薬品はどれか。1つ選びなさい。なお、本品の性状として、日本薬局方には「本品は水に極めて溶けやすく、エタノール(95)に溶けやすい。」「本品は光によって淡黄色となる。」と記載されている。
108回薬剤師国家試験 問208 解答解説
オキサリプラチンの点滴とカペシタビンの内服の併用化学療法をXELOX(ゼロックス)療法と呼ぶ。
本患者において、薬物相互作用による重篤な副作用を回避するため、薬剤師が定期的にモニタリングすべき検査項目として、最も重要なのは、5のPT−INRである。
カペシタビン(ゼローダ)はCYP2C9の酵素蛋白合成系に影響し、酵素活性を低下させると考えられており、
ワルファリンカリウムと併用した場合、CYP2C9で代謝されるワルファリンの血中濃度を上昇させる恐れがある。
よって、カペシタビンとワルファリンカリウムを併用する場合は、定期的にPT−INR等の血液凝固能検査を行う必要がある。
108回薬剤師国家試験 問209 解答解説
問208では、カペシタビンとワルファリンカリウムとの薬物相互作用に注意するとのことだったので、
ワルファリンカリウムの構造を選べばよい。
ワルファリンカリウムはクマリン誘導体であるので、クマリン骨格を含む選択肢1が正解である。
なお、ワルファリンカリウムの性状について、水に極めて溶けやすいのはカリウム塩であることに由来し、光によって淡黄色となるのは共役系構造を有することに由来すると考えられる。
ワルファリンは光による変色および含量低下を認めることがあるため、
PTP包装から出したものやバラ包装のものは、遮光して保存する必要がある。
以下、他の選択肢について
◆ 選択肢2について
選択肢2は、カテコールアミンに類似した構造を有するので、
アドレナリン受容体アンタゴニスト(拮抗薬)のカルベジロール(アーチスト)と推測できる。
アドレナリン受容体を標的とする薬物は、カテコールアミンに類似した構造を有する。
下記はカテールアミンのアドレナリンの構造である。
アドレナリン受容体アゴニスト(刺激薬)は、ベンゼン環にヒドロキシ基を持つ。
このヒドロキシ基がアドレナリン受容体と水素結合を形成することで、アドレナリン受容体が活性型に構造変化する。
一方、アドレナリン受容体アンタゴニスト(拮抗薬)は、
ベンゼン環にヒドロキシ基を持たないので、アゴニスト作用を示さない。
また、アドレナリンβ受容体アンタゴニスト(βブロッカー)は、
ベンゼン環の側鎖がエーテル結合でつながれている。
カルベジロールは、β1,β2受容体遮断作用のみならず、α1受容体遮断作用も有するので、αβ受容体遮断薬とされる。
なお、カルベジロールの性状は、
水にほとんど溶けず、エタノールに溶けにくく、酢酸に溶けやすい。
カルベジロールが酢酸に溶けやすいのは、アミンを有するためだと考えられる。
◆ 選択肢3について
選択肢3は、ビフェニルテトラゾール基とイミダゾール基がつながった構造を有する。
これはアンギオテンシンU受容体1拮抗薬(ARB)に特徴的な構造であるので、選択肢3はロサルタンカリウムだと推測できる。
なお、ロサルタンカリウムの性状は、水に極めて溶けやすく、メタノールとエタノールに溶けやすい。
同じアンギオテンシンU受容体1拮抗薬(ARB)でも、
基本構造のビフェニルテトラゾール基とイミダゾール基に改変が見られる。
例えば、テルミサルタン(ミカルディス)は、胆汁排泄型持続性アンギオテンシンU受容体1拮抗薬であり、
テトラゾール基がバイオアイソスター(生物学的等価体)のカルボキシ基になっており、
イミダゾール基がベンズイミダゾール基になっている。
関連問題
カンデサルタンシレキセチルの構造と性質 100回問106
◆ 選択肢4について
選択肢4は、副腎皮質ホルモンに類似した構造を有するので、
抗アルドステロン性利尿・降圧剤のスピロノラクトン(アルダクトン)と推測できる。
スピロノラクトンは、アルドステロン受容体(ミネラルコルチコイド受容体:MR)の拮抗薬であり、
アルドステロン拮抗作用により、ナトリウム及び水の排泄を促進し、カリウムの排泄を抑制する。
なお、スピロノラクトンの性状は、水にほとんど溶けず、メタノールに溶けにくく、エタノールにやや溶けやすく、クロロホルムに溶けやすい。
◆ 選択肢5について
選択肢5は、スルホンアミドとベンゾチアジアジン骨格を有する。
これは、チアジド系(サイアザイド系)利尿剤の構造的特徴なので、
選択肢5はヒドロクロロチアジドだと推測できる。
なお、ヒドロクロロチアジドの性状は、水又はエタノールに極めて溶けにくく、ジエチルエーテルにほとんど溶けず、アセトニトリルにやや溶けにくく、アセトンに溶けやすく、水酸化ナトリウム試液に溶ける。
カルボン酸アミド(CO−NH)はほぼ中性だが、スルホンアミド(SO2−NH)は弱酸性を示すので、水酸化ナトリウムに溶けると考えられる。
◆ 選択肢6について
選択肢6は、ステロイド骨格に糖が配位していることから、
強心配糖体のメチルジゴキシン(ラニラピッド)と推測できる。
強心配糖体のステロイド骨格は、A/Bシス、かつ、C/Dシスであることが特徴的であり、
特に、C/Dシスであることは他のステロイドアナログと異なる点である。
さらに、14βにヒドロキシ基、17βに不飽和ラクトンを有することも、強心配糖体のアグリコンに特徴的である。
なお、10位と13位にメチル基、17位に5員環のα,β不飽和ラクトンを有する強心配糖体をカルデノリド類と呼ぶ。
ジギタリスに配位している糖はD-ジギトキソースである。
なお、メチルジゴキシンの性状は、
水に極めて溶けにくく、エタノール又はアセトンに溶けにくく、メタノールにやや溶けにくく、ピリジン又は酢酸に溶けやすい。
関連問題
ジギトキシンのステロイド骨格のcis,trans 99回問109の4
★他サイトさんの解説へのリンク
108回問208,209(e-RECさん)