ドパミンのMAOBによる代謝とセレギリンによるMAOBの阻害の機構 109回薬剤師国家試験問207
109回薬剤師国家試験 問207
ドパミンは、FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)を補酵素としてモノアミン酸化酵素B(MAOB)により代謝される。この代謝反応は、以下の図に示す機構で進行すると考えられている。セレギリンはこの補酵素と共有結合を形成することでMAOBを不可逆的に阻害する。反応@の過程でドパミンの水素アは、セレギリンにおいては水素イに相当する。以下の記述のうち、正しいのはどれか。2つ選びなさい。ただし、図中のFADの化学構造はRとして一部省略している。
1 反応@において、FADは還元剤として働く。
2 反応Aは、置換反応である。
3 反応Bにおいて、カテコール骨格をもつイミンが生成する。
4 反応Cで生成する「代謝物」は、カテコール骨格をもつ第一級アミンである。
5 セレギリンは炭素ウで補酵素と共有結合を形成する。
109回薬剤師国家試験 問207 解答解説
◆ 1について
1 × 反応@において、FADは還元剤として働く。
→ 〇 反応@において、FADは酸化剤として働く。
反応@において、FADはドパミンからヒドリド(H−)を受け取り、還元されている。
よって、反応@において、FADは酸化剤として働く。
◆ 2について
2 × 反応Aは、置換反応である。
→ 〇 反応Aは、付加反応である。
反応Aでは、FADH2の窒素が、ドパミンの代謝物の二重結合の炭素に対し、
求核攻撃して付加し、二重結合が無くなっている。
よって、反応Aは、求核付加反応である。
◆ 3について
3 ○ 反応Bにおいて、カテコール骨格をもつイミンが生成する。
反応Bの生成物は、下記の通り、
イミンとカテコールを有する。
◆ 4について
4 × 反応Cで生成する「代謝物」は、カテコール骨格をもつ第一級アミンである。
以下に示す通り、
イミンは加水分解を受けると、
C=Nの結合が切断され、
アルデヒドまたはケトンと、アミンまたはアンモニアを生成する。
以上より、反応Cで生成する「代謝物」は、
カテコール骨格をもつ第一級アミンではない。
なお、アルデヒドはカルボン酸に酸化やすいので、
ドパミンのMAOBによる代謝物は、
最終的にカルボン酸になると考えられる。
◆ 5について
5 ○ セレギリンは炭素ウで補酵素と共有結合を形成する。
セレギリンとFADの反応について、
問題文中に、「ドパミンの水素アは、セレギリンにおいては水素イに相当する」とあるので、
水素イがヒドリドとしてFADに供与される。
このように、セレギリンはFADH2と共有結合を形成し、
結果として、MAOBを不可逆的に阻害する。
セレギリンの代謝物の炭素ウが求核攻撃を受ける理由を述べる。
炭素ウは、電子求引基であるイミンが置換するアルキンのβ位炭素である。
電子求引基が置換する不飽和結合のβ位炭素は、電子不足である。
また、炭素ウは、末端の炭素であるため、反応しやすい位置である。
以上のことから、炭素ウが、求核攻撃を受けると考えられる。
なお、セレギリンの代謝物とFADH2の反応は、
電子求引基が置換したアルキンを基質とするマイケル付加反応だと考えられる。
詳細は下記のリンク先を参照
マイケル付加反応の反応機構 102回問207