94回薬剤師国家試験問15 ステロイド骨格を有する化合物の構造と性質
94回薬剤師国家試験 問15
ステロイド骨格を有する化合物の構造と性質に関する記述の正誤を判定してみよう。
a ヒドロコルチゾンのメタノール溶液にフェーリング試液を加えて加熱すると赤色の沈殿を生じるのは、還元性をもつα-ヒドロキシケトン部分が含まれているためである
b エチニルエストラジオールをテトラヒドロフラン中で、硝酸銀により処理すると銀塩を生じるのは、フェノール性水酸基が存在するためである。
c プロゲステロンをヒドロキシルアミンと反応させると、オキシムの結晶が得られる。
d プロゲステロンは、二酸化炭素の炭素原子と同じ混成軌道をもつ炭素を含んでいる。
94回薬剤師国家試験 問15 解答解説
◆ aについて
a 〇 ヒドロコルチゾンのメタノール溶液にフェーリング試液を加えて加熱すると赤色の沈殿を生じるのは、還元性をもつα-ヒドロキシケトン部分が含まれているためである。
フェーリング反応は、還元性を示す物質の検出に用いられる。
ヒドロコルチゾンはα-ヒドロキシケトン(α-ケトール)構造を有する。
α-ヒドロキシケトン(α-ケトール)構造は還元性を示すため、フェーリング試液を加えて加熱すると、
Cu2+が還元されて赤色のCu2Oが沈殿する。
本反応は、ヒドロコルチゾンのようにα−ヒドロキシケトン(α−ケトール)構造を有する医薬品の確認試験に利用されている。
α-ヒドロキシケトン(α-ケトール)の還元性については下記のリンク先を参照
α-ヒドロキシケトン(α-ケトール)が還元性を示す理由
◆ bについて
b × エチニルエストラジオールをテトラヒドロフラン中で、硝酸銀により処理すると銀塩を生じるのは、フェノール性水酸基が存在するためである。
→ 〇 エチニルエストラジオールをテトラヒドロフラン中で、硝酸銀により処理すると銀塩を生じるのは、末端アルキンが存在するためである。
末端アルキン(R−C三CH)は炭化水素の中でも比較的に酸性度が高く、プロトンが外れてカルボアニオン(R−C三C:-)となる。
本問の反応では、エチニルエストラジオールの末端アルキンがカルボアニオンとなり、これがAg+と反応して銀塩を生じると考えられる。
本問の反応に関して、日本薬局方のエチニルエストラジオールの定量法の1つとして下記の方法がある。
「本品を乾燥し,その約0.2 gを精密に量り,テトラヒドロフラン40 mLに溶かし,硝酸銀溶液(1→20) 10 mLを加え,0.1 mol/L水酸化ナトリウム液で滴定〈2.50〉する(電位差滴定法)」
◆ cについて
c 〇 プロゲステロンをヒドロキシルアミンと反応させると、オキシムの結晶が得られる。
アルデヒド・ケトンとヒドロキシルアミンを反応させるとオキシムを生成する。
詳細は下記のリンク先を参照
アルデヒド,ケトンとヒドロキシルアミンよりオキシム生成 85回問5b
プロゲステロンは2つのケトンを有するので、ヒドロキシルアミンと反応させるとオキシムを生成する。
◆ dについて
d × プロゲステロンは、二酸化炭素の炭素原子と同じ混成軌道をもつ炭素を含んでいる。
二酸化炭素の炭素原子はsp混成軌道である。
プロゲステロンにはsp混成軌道をもつ炭素はない。
なお、エチニルエストラジオールのアルキンの炭素原子はsp混成軌道を持つ。