β-ラクタム系抗生物質の作用機序 ペプチドグリカン合成酵素のアシル化

本ページでは、β−ラクタム系抗生物質の作用機序について説明しています。

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β−ラクタム系抗生物質は、細菌細胞壁の構成成分のペプチドグリカンの生合成に関わる酵素であるペニシリン結合タンパク質(PBP)との間で共有結合を形成することで、本酵素の働きを抑制し、正常な細胞壁の生合成を阻害することで殺菌作用を示す。
ペニシリン結合タンパク質(PBP)はトランスペプチダーゼ活性を持つが、
その活性中心にはセリン残基がある。
そのセリン残基のOH基がβ−ラクタムの正に分極するカルボニル炭素に対して求核攻撃を行うことにより、求核付加−脱離反応が進行し、PBPのトランスペプチダーゼの活性中心のセリン残基はアシル化されることになる。

 

PBPの活性中心のセリン残基OH基のβ−ラクタムに対する求核アシル置換反応は下記の通り。

 

β-ラクタム系の作用機序 細胞壁合成酵素PBPのアシル化

 

 

一般に、鎖状アミドは安定性が高く、求核付加−脱離反応(求核アシル置換反応)に対する反応性は低い。
しかし、β−ラクタム環は、四員環の環状アミドであるため結合角ひずみのエネルギーが大きく、
開環すると結合角ひずみが解消されてエネルギーが大きく低下することから、求核アシル置換反応に対する反応性は高い。
さらに、β−ラクタム環は四員環のために窒素原子とカルボニル基との共鳴が抑制されることから、β−ラクタム環のカルボニル炭素は、鎖状アミドのカルボニル炭素に比べて電子密度が低く、求電子性が高くなっている。

 

以上のことから、鎖状アミドに比べて、β−ラクタム環のカルボニル炭素は求電子性が高く、求核付加−脱離反応(求核アシル置換反応)に対する反応性は高い。
このように、β−ラクタム系抗生物質は、ペプチドグリカン合成酵素のペニシリン結合タンパク質(PBP)のトランスペプチダーゼとの間でβ−ラクタム環の開環反応を伴って共有結合を形成することにより、本酵素を非可逆的に阻害し、ペプチドグリカンの生合成を阻害する。

 

 

★ β−ラクタムの共鳴についての補足

 

β−ラクタムは小員環の環状アミドであるため、共鳴の様子が鎖状アミドとは異なり、下記のような様相を呈すと考えられている。

 

β-ラクタム系の作用機序 細胞壁合成酵素PBPのアシル化

 

四員環の結合角ひずみのため、右端のラクチム型の共鳴構造式は比較的にとりにくいと考えられている。
このことは、β−ラクタム環のカルボニル炭素が鎖状アミドのカルボニル炭素に比べて電子密度が低く、求電子性が高くなっている一因と考えられている。

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