ドキソルビシン塩酸塩注(アドリアシン注)の調整方法 107回薬剤師国家試験問196,197

107回薬剤師国家試験 問196?197
17歳男性。身長175cm、体重72kg。悪性軟部肉腫に対し、以下の処方で初期治療を行うことになった。
(処方)
ドキソルビシン塩酸塩注射用 120mg
生理食塩液50mL       1本
30分かけて点滴静注

 

 

問196(実務)
この処方を調製する際には、難溶性の凝集体が生成することがある。確実に溶解させるための操作として、適切なのはどれか。2つ選びなさい。
なお、処方にない溶解液を用いる場合は、医師に確認した上で行うものとする。

 

1 微量の生理食塩液をゆっくり加えて攪拌後、生理食塩液50mLに混合する。
2 溶解に必要な量の生理食塩液を素早く加えて攪拌後、生理食塩液50mLに混合する。
3 溶解に必要な量の注射用水を素早く加えて攪拌後、生理食塩液50mLに混合する。
4 溶解に必要な量の7%炭酸水素ナトリウム液を素早く加えて攪拌後、生理食塩液50mLに混合する。
5 溶解に必要な量の10%塩化ナトリウム液を素早く加えて攪拌後、生理食塩液50mLに混合する。

 

 

問197(物理・化学・生物)
前問の難溶性凝集体が生成する相互作用として、適切なのはどれか。1つ選びなさい。
なお、ドキソルビシン塩酸塩の構造式は以下のとおりである。

 

ドキソルビシン塩酸塩注の調整・溶解 107回薬剤師国家試験問196,197

 

1 π−πスタッキング
2 配位結合
3 疎水性相互作用
4 水素結合
5 電荷移動相互作用

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107回薬剤師国家試験 問196(実務) 解答解説

 

ドキソルビシン塩酸塩を確実に溶解させるための操作として適切なのは、
選択肢の2,3である。

 

1 × 微量の生理食塩液をゆっくり加えて攪拌後、生理食塩液50mLに混合する。
2 〇 溶解に必要な量の生理食塩液を素早く加えて攪拌後、生理食塩液50mLに混合する。
3 〇 溶解に必要な量の注射用水を素早く加えて攪拌後、生理食塩液50mLに混合する。
4 × 溶解に必要な量の7%炭酸水素ナトリウム液を素早く加えて攪拌後、生理食塩液50mLに混合する。
5 × 溶解に必要な量の10%塩化ナトリウム液を素早く加えて攪拌後、生理食塩液50mLに混合する。

 

 

・ドキソルビシン塩酸塩注(アドリアシン注)の添付文書に関連する記述がある。

 

・安定性の項に下記の記述
「水溶液はpHによって安定性が左右され、酸性側ではほぼ安定であるが、アルカリ側では不安定であり経時的に力価が低下する。」

 

 

・調製時の項に下記の記述
(1) 本剤は溶解時のpHにより安定性が低下することがあるので、他の薬剤との混注を避け、日局注射用水又は日局生理食塩液に溶解すること。またフルオロウラシル注射液等のアルカリ性薬剤の調剤に使用したシリンジ(注射筒)を本剤の調製時に使用すると不溶性の凝集物を形成するので避けること。

 

(2) 本剤を日局生理食塩液で溶解する場合は、ドキソルビシン塩酸塩として10mg(力価)当たり1mL以上で速やかに行うこと。[微量の日局生理食塩液で溶解を開始すると溶けにくくなることがある。

 

(3) 溶解後速やかに使用すること。

 

 

なお、本問のドキソルビシン塩酸塩注(アドリアシン注)は、
ドキソルビシン塩酸塩をMPEG-DSPE修飾リポソームに封入した静脈内投与製剤であるドキシル注とは異なる製剤であるので注意。

 

以下、
ドキソルビシンの特徴を記す。

 

◆ ドキソルビシンの薬理作用
下記はドキソルビシン塩酸塩注であるアドリアシン注のインタビューフォームの薬理作用の記述である。
「ドキソルビシンは腫瘍細胞のDNAの塩基対間に挿入し(インターカレーション作用)、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ及びトポイソメラーゼU反応を阻害し、DNA,RNA の双方の生合成を抑制することによって抗腫瘍効果を示す。細胞周期別では特にS期の細胞が高い感受性を示す。」

 

ドキソルビシン等のアントラサイクリン系抗腫瘍抗生物質の化合物は、
平面なアントラキノン骨格にアミノ糖が結合した構造的特徴を有する。
平面なアントラキノン骨格はDNAの塩基対間に入り込む。これをDNAインターカレーション作用と呼ぶ。
このDNAインターカレーション作用が抗腫瘍効果につながると考えられている。
アミノ糖等のアントラキノン骨格以外の部分(側鎖)はインターカレーションに関与しないが、
DNAの狭い溝(副溝)において側鎖はリン酸基や糖,塩基と相互作用して安定化に寄与する。

 

なお、-rubicinはアントラサイクリン系抗腫瘍抗生物質のステムである。

 

 

◆ アントラサイクリン系薬剤は心毒性に注意
ドキソルビシン等のアントラサイクリン系薬剤は心毒性に注意する。

 

下記はドキソルビシン塩酸塩注(アドリアシン注)の添付文書中の心毒性に関する記述である。

 

・重大な副作用
「心筋障害、更に心不全があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止すること。また、総投与量が500mg/m2を超えると重篤な心筋障害を起こすことが多いので注意すること。」

 

・重要な基本的注意
「アントラサイクリン系薬剤未治療例で、本剤の総投与量が500mg/m2を超えると重篤な心筋障害を起こすことが多くなるので注意すること。また、胸部あるいは腹部に放射線療法を受けた患者では心筋障害が増強されるおそれがあるので特に注意すること。」

 

・併用注意
投与前の心臓部あるいは縦隔への放射線照射、潜在的に心毒性を有する抗悪性腫瘍剤(アントラサイクリン系薬剤等)

 

臨床症状・措置方法
心筋障害が増強されるおそれがある。

 

機序・危険因子
心筋に対する蓄積毒性が増強される。

 

 

◆ アントラサイクリン系薬剤投与による尿の赤変
ドキソルビシン等のアントラサイクリン系薬剤は、
尿中排泄により尿が赤色になることがある。

 

 

107回薬剤師国家試験 問197(物理・化学・生物) 解答解説

 

ドキソルビシン塩酸塩注の調整において、
難溶性凝集体が生成する際の相互作用は、
1のπ−πスタッキングである。

 

ドキソルビシン塩酸塩注の調整・溶解 107回薬剤師国家試験問196,197

 

π−πスタッキング(π−π相互作用)とは、2つの芳香環のπ電子の相互作用により芳香環同士が重なり安定化することである。
π−π相互作用は誘起双極子−誘起双極子相互作用の1つである。
ドキソルビシンが有するアントラキノン骨格は、
π電子豊富で、かつ、平面的で重なりやすいので、
π−πスタッキングにより凝集すると考えられる。

 

 

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