ワルファリンと食品の相互作用 103回薬剤師国家試験問272−273
103回薬剤師国家試験 問272−273
76歳男性。1年前より心房細動にて内科を受診してワルファリンを服用しており、その処方は以下のとおりであった。朝食後に忘れず服用していること、他科受診及び併用薬はないこと、納豆は食べていないことを薬剤の交付時に確認していた。
本日、本人が妻と一緒に処方箋を持って薬局を訪れた。処方箋を確認したところ、1回2錠から1回4錠に増量となっていた。本人によると、血液検査の結果が悪かったため、増量になったとのことであった。また、妻によると、1ヶ月半前から毎食前にジュースを作って飲ませているとの話であった。
問272(実務)
ジュースについて確認したところ、次の食材が含まれているとのことだった。薬剤が増量になった原因として考えられる食材はどれか。1つ選びなさい。
1 グレープフルーツ
2 ニンジン
3 ブルーベリー
4 ホウレンソウ
5 ヨーグルト
問273(薬剤)
前問と同じメカニズムによる相互作用の例として、適切なのはどれか。1つ選びなさい。
1 リファンピシンは、ワルファリンの肝取り込みトランスポーターを阻害する。
2 ミコナゾールは、CYP2C9を誘導してワルファリンの代謝速度を上昇させる。
3 メナテトレノンは、ワルファリンによる血液凝固因子の生合成阻害作用と拮抗する。
4 アスピリンは、ワルファリンによる血小板凝集抑制作用と拮抗する。
5 コレスチラミンは、腸管内でワルファリンを吸着することで吸収を阻害する。
103回薬剤師国家試験 問272(実務) 解答解説
ワルファリンが増量になった原因として考えられる食材は、
選択肢4のホウレンソウである。
ワルファリンは、ビタミンK作用に拮抗し、肝臓におけるビタミンK依存性血液凝固因子の生合成を抑制して、抗凝固効果及び抗血栓効果を発揮する。
よって、ビタミンKを多量に摂取すると、ビタミンKがワルファリンのビタミンK依存性凝固因子生合成阻害作用と拮抗し、ワルファリンの薬効が減弱する。
納豆,クロレラ,青汁は、ビタミンKの含有量が多いため、
ワルファリン服用中は摂取を避ける。
緑色野菜はビタミンKが豊富なものが多く、
ジュースにするなどで多量に摂取すると、
ビタミンKを多量に摂取することになり、ワルファリンの作用が減弱する。
ホウレンソウはビタミンKの含有量が多いため、ワルファリン服用中は、
ホウレンソウを摂取しすぎないようにする。
なお、選択肢2のニンジンについて、
根菜類は、根や地下茎の部分はビタミンKが少ないが、
葉や地上茎はビタミンKが多いので注意が必要である。
103回薬剤師国家試験 問273(薬剤) 解答解説
問272と同じメカニズムによる相互作用の例として、適切なのは、
選択肢3の
「メナテトレノンは、ワルファリンによる血液凝固因子の生合成阻害作用と拮抗する」である。
メナテトレノン(グラケー,ケイツー)は、ビタミンK2製剤であるため、
よって、メナテトレノンとワルファリンを併用すると、
メナテトレノンがワルファリンのビタミンK依存性凝固因子生合成阻害作用と拮抗し、ワルファリンの薬効が減弱する。
このことから、メナテトレノン製剤のうち、グラケーカプセル15mgとその後発品は、
ワルファリンと併用禁忌となっている。
また、ケイツーカプセル5mg等の他のメナテトレノン製剤は、
ワルファリンと併用注意となっている。
以下、他の選択肢について
◆ 1について
1 × リファンピシンは、ワルファリンの肝取り込みトランスポーターを阻害する。
リファンピシンは、CYPやUDP-グルクロン酸転移酵素などの薬物代謝酵素の誘導作用、薬物排出トランスポーターのP-糖タンパク質の誘導作用を有している。
また、リファンピシンは、有機アニオントランスポーターのOATP1B1,OATP1B3を阻害する作用も有している。
ワルファリンは、光学異性体が存在し、
S−ワルファリンは主にCYP2C9による代謝で消失し、
R−ワルファリンはCYP1A2やCYP3A4などによる代謝で消失する。
よって、リファンピシンのCYP誘導作用により、
ワルファリンの血中濃度が低下し、薬効が減弱するおそれがある。
◆ 2について
2 × ミコナゾールは、CYP2C9を誘導してワルファリンの代謝速度を上昇させる。
→ 〇 ミコナゾールは、CYP2C9を阻害してワルファリンの代謝速度を低下させる。
構造中にイミダゾール環やトリアゾール環などの含窒素複素環を有する化合物は、
複素環の窒素原子がCYPのヘム鉄に配位結合することにより、
CYPによる代謝を阻害する。
この機構によるCYPの阻害は、可逆的な阻害だと考えられている。
ミコナゾールは、イミダゾール系抗真菌薬であり、
構造中にイミダゾール環を有し、
CYP3A及びCYP2C9を阻害する。
よって、ワルファリンとミコナゾールを併用すると、
ワルファリンのCYPによる代謝が抑制され、
ワルファリンの血中濃度が上昇し、薬効が増強するおそれがある。
このことから、イミダゾール製剤のうち、
オラビ錠口腔用,フロリードゲル経口用,フロリードF注は、
ワルファリンと併用禁忌となっている。
また、フロリードDクリームとフロリード膣坐剤は、
ワルファリンと併用注意となっている。
◆ 4について
4 × アスピリンは、ワルファリンによる血小板凝集抑制作用と拮抗する。
アスピリンは血小板凝集抑制作用を有するので、
ワルファリンとの併用で相互に出血傾向を増強することがある。
また、ワルファリンとアスピリンを併用すると、
血漿タンパクに結合したワルファリンと非結合型のアスピリンが置換し、
ワルファリンの非結合型が増え、ワルファリンの薬効が増強する可能性がある。
◆ 5について
5 コレスチラミンは、腸管内でワルファリンを吸着することで吸収を阻害する。
コレスチラミン(クエストラン)は、陰イオン交換樹脂である。
ワルファリンは酸性薬物であるので、
ワルファリンとコレスチラミンを併用すると、
腸管内でコレスチラミンがワルファリンを吸着し、ワルファリンの吸収が低下する。
よって、コレスチラミンと併用してワルファリンを投与する場合は、
コレスチラミン投与前4時間若しくは投与後4〜6時間以上、又は可能な限り間隔をあけて慎重にワルファリンを投与する。
関連問題
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